不思議な日本経済新聞の記事 ジョージア州の電気料金高騰は原子力発電のため?
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
12月12日付日経新聞(オンライン)の記事「再エネ高い」は日本だけ?太陽光、世界でコスト9割減」を読み、引用されているジョージア州の電気料金に関する記述が私の理解とあまりに異なるので、驚いてしまった。
記事は、「今年の夏ジョージア州の電気料金は上昇した。州都アトランタに老夫婦2人で暮らす年金生活者の8月の電気代は618ドル(約9万3千円)。前年同月の2倍近い。アトランタ郊外の住民の7月の電気代は同6割増の646ドル。急上昇の原因はボーグル原発の稼働。新設の3号機が2023年7月に、4号機が24年4月に稼働し、ジョージアパワーは建設費を電気代に上乗せした。同州は発電コストなどを電力価格に転嫁する「総括原価方式」を採る。」と伝えている。
ジョージア州では、電気料金が州公共委員会により規制されているジョージアパワーに加え、消費者が保有する電力共同組合と地方自治体などが保有する電力会社も93ある。例にあげられている料金は他の電力会社のものかもしれない。しかし、そうだとするとボーグル運開の影響はないはずだ。
あるいは、電気の使用量が今年と昨年では大きく違っているのかもしれない。そうでなければ、辻褄が合わない。原子力発電所の新設に伴うコストが新たに電気料金に乗せられたのは事実だが、ジョージアパワーによると標準的な世帯で月当たり14ドル程度とされる。
具体的には3号機運開に伴い2023年8月に3.2%、4号機により2024年5月に5%の値上げがあった。合計で10%に達していない。電気料金には料金単価に加え燃料費調整、環境費用負担などもあるので、実際の支払額での上昇比率はこれよりも低いはずだ。昨年比6割増、あるいは2倍近い電気料金上昇の原因であるわけがない。ジョージアパワーは原子力発電により将来の電気料金は安くなり、安定化すると説明している。
米エネルギー省によるとジョージア州の家庭用平均電気料金の推移は図-1の通りだ。料金単価は大きく上昇していない。このデータは間違いだろうか?
間違いではないようだ。州公共事業委員会は、ジョージアパワーの契約者のために、標準的な契約の電気料金がいくらになるか、計算式を提供している。ジョージアパワーの標準世帯の電力使用量は不明だが、州の全契約者の平均電力使用量は、ひと月1620kWhとされている。東京電力の標準世帯の使用量260kWhの6倍を超えているが、その電気料金は、今年6月から9月の夏季料金で329.74ドル(約5万円)。10月からの冬季料金で245.57ドル(約3万7000円)だ。
夏季料金が高い理由の一つは、使用量抑制のため、使用量が増えれば単価が上昇する料金体系になっていることがある(表-1)。今年の夏季料金は昨年より高くなったが、その理由として州公共事業委員会は、天然ガス価格の上昇をあげているだけだ。原子力発電によるコスト増にはまったく触れていない。夏季料金が終われば、料金は下がるので、夏季の高い料金が原子力発電と関係ないことは明白だ。
ジョージアパワーではシニア割もあるので、記事にある年金生活者であれば電気料金は少し安くなる。それでも600ドル以上支払っているというのは、よほど大きな家に住んでいるということだろうか。昨年との比較で2倍近い理由は、使用量の大幅増か、あるいは選択している料金プランの変更だろうか。
私の理解とあまりに異なる記事なので、ひょっとして何か誤解しているかと思い、もう一度ジョージア州の電気料金を調べたが、記事の内容を裏付けるデータは得られなかった。
分かったのは、ジョージア州では今年6月下旬から華氏90度(摂氏32度)以上の日が20日間連続するなど気温が高い日が多く、家庭の電力使用量が大きく増加したと報じられていたことだ。取材対象の家庭は、昨年との比較で今年どれだけ電気を多く使ったのだろうか。
なぜ気温上昇による電力使用量増が主な原因の電気料金上昇が、原発稼働による料金上昇に置き換えられるのだろうか。日経新聞に解説をお願いしたい。できれば記事の中に登場する方の料金明細書を見せて欲しいくらいだ。
ちなみに、再エネにも触れている記事だが、再エネの課題は発電コストだけではない。不安定な再エネからの発電を安定化させるコスト、消費地に送電するためのコスト、要は、時間と空間の問題を解決し安定供給するコストがより大きな問題だ。記事はこの点にまったく触れていない。記事を書いた方は、原子力が嫌いで、再エネ推しかもしれないが、記事は正確なデータに基づくべきだ。
米国の再エネが直面する課題についても、機会があれば、書くことにしたい。