納豆が大豆より先だった
書評:高野 秀行 著『幻のアフリカ納豆を追え! : そして現れた<サピエンス納豆> 』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(「電気新聞」より転載:2024年11月29日付)
納豆は日本固有の伝統食品だと思っていた。元々イネワラには納豆菌がすんでいるので、大豆を包んでおくだけでできる。イネワラなので米との相性は絶品になる。何という奇跡! 長い間こう思っていた。だがこの本で木っ端みじんに、それも爽快に砕かれた。
私は著者の高野秀行の本が大好きで、もう何冊も読んだ。「誰も行ったことがない所に行き、誰もしたことがないことをして、それを面白く書く」のがモットーだ。
それで高野はミャンマーの麻薬地帯やら、ソマリアの無法地帯やら、とんでもない辺境に行くのだが、あちこちで懐かしい味に出会った。納豆によく似た食べ物が、そこかしこにあったのだ。だが、豆は大豆ではなく、ソラマメだったり、あるいは木に成る豆であったりした。しかも、それを包むのもイネワラではなく、木の葉っぱ、それも土地によって全く違うものだった。共通なのは、加熱してから、くるんで、何日か熟成する、これだけだ。
要は、納豆菌に似た枯草菌など、どこにでもいるので、イネワラでなくて何でもよい。豆も別に大豆でなくて何でもよい。
高野は食べるだけで飽きたらず自分で調理する。試行錯誤の末、世界中の納豆もどきを作った。
納豆は日本固有どころではなく、世界中にあった、しかもその食べ方は、韓国のように納豆汁にしたりすることもあるし、納豆せんべいなど、日本にない食べ方もたくさんある。
なぜこの納豆文化が世界に知られていなかったのか? それは、安い庶民の食べ物なので、特産品としてブランド化されて世界に流通しなかったということらしい。
圧巻は最終章。納豆が大豆より先だったと言う理論だ。なんのことかというと、大豆は毒があるので生食できない。だが何か葉っぱにくるんで発酵させれば食べることができる。それで便利だから人間は栽培するようになった。毒があるということは、他の動物も食べることができないが、人間だけが発酵によってその解毒をすることができる。こうなると、毒は強いほうが食害がなくてよく育つので、大豆の毒はどんどん強くなっていく。こうして、最初は小さくて毒の弱かったツルマメが、原始の人間により、大きくて毒の強い大豆に改良された、という訳だ。
ところで高野さん、木に成る豆は草に成る大豆とは違い人間は改良しなかったと書いているが、私はきっと改良したと思う。いつかお話しさせて下さい。
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『幻のアフリカ納豆を追え! : そして現れた<サピエンス納豆>』
高野 秀行 著(出版社:新潮社)
ISBN-10:4103400722