トランプ氏は電気代を半分にできるのか
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2024年9月1日号)
かつて大手スーパーマーケットチェーンの経営者が、「日本の電気料金は高い。米国の2倍だ」と憤っていた。主要国で最も電気料金が安いエネルギー自給国の米国と比較し高いと言うのは、エネルギーの知識がないからだろう。
米国では州により電気料金は大きく違う。今年5月時点で家庭用電気料金が最も高いのはハワイ州だが、大陸ではカリフォルニア州の1kW時当たり34.31セントが最も高い。全米平均は16.43セント。産業用平均は7.95セントだ。
トランプ前大統領は8月14日の選挙集会で、大統領になればインフレ抑制のため規制緩和などを通し就任後12カ月以内、最長でも18カ月以内にエネルギー価格と電気料金を半額以下にすると表明した。全米平均で家庭用電気料金を8セント、産業用を4セントに下げることが可能だろうか。
エネルギー省の資料では、米国の2022年の電気料金の内訳は、発電コスト62%、送電コスト12%、配電コスト26%だ。送配電コストを大きく下げるのは、難しそうだ。そうなると発電コストを大幅に下げられるかがカギになる。
発電コストの内訳もエネルギー省の資料で分かるが、22年の汽力発電のコスト4.388セントのうち、燃料費の額は3.204セントだ。残りのメインテナンスの費用と操業費の引き下げは困難だろう。燃料費を下げるしかない。
22年の電力会社の発電所着の石炭価格は1トン当たり約46ドル、天然ガス価格はLNG1トンに換算し324ドルだった。コロナ禍の20年が近年では燃料価格が最も安い年だが、石炭価格43ドル、LNG換算価格113ドルに対しこの時の燃料コストは2.287セント。22年との差はわずか1セントだ。
天然ガス価格は、トランプになれば増産と値下がりがありえるが、石炭価格を下げるのはコスト面から難しい。安価で価格が安定している石炭利用の発電比率が下がっていくことも燃料価格の上昇を招く可能性がある。大統領でも電気料金を下げることは難しい。トランプ当選時には、どんな政策が登場するのだろうか。