電力会社の本当の稼ぐ力は脆弱
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2024年3月11日号)
大手電力の決算が好調と報じられている。23年4月~12月期決算では8社が過去最高益だった。燃料費調整制度の影響もあり利益額が膨らんでいるが、電力会社の本当の稼ぐ力を、利益額だけでみると判断を誤る。
事業の形態は大きく二つに分けられる。一つは、流動資産を主に使うビジネスだ。法人企業統計によると卸・小売業では在庫などの流動資産額は固定資産の1.5倍ある。もう一つは固定資産を利用する事業だ。多くの製造業、電力事業が該当する。電力事業の固定資産額は流動資産の約5倍ある。
流動資産を利用する事業からの収益、リターンは主に利益額として得られる。一方、固定資産を利用し稼ぐ事業のリターンのかなりの部分は減価償却費として得られる。新規事業の開始時にROIと呼ばれる投資収益率を計算する際には、減価償却費と利益からなるキャッシュフロー額を現在価値に割引いた上でROIを弾き出す。
装置産業の典型である電力産業の場合には、当然キャッシュフローに基づきROIを計算する必要がある。継続している事業のROIの計算には詳細な内部情報が必要なのでできないが、簡単に電力会社の23年度の第3四半期までのキャッシュフロー額を年間ベースに置きなおし総資産に対する比率を試算し2010年度と比較した。四国電力の10年度の7.8%は23年度7.9%に。関西電力の7.5%は9.0%に上がったが、北海道電力の7.3%は6.5%に下がった。
財務諸表を見ると、各社とも償却方法等の変更により減価償却費を抑制し利益額を増やしているように見える。また総資産が増えているが、借り入れ、あるはい社債により資金調達が行われているので、自己資本比率は過去最高からは下がった。最高益を叩きだしたとは言え、リスクを取り新規投資を行える財務内容ではない。
電力会社が継続的に適切なROIを得られるような制度を導入しない限り、日本の二酸化炭素の4割を排出する電力部門の脱炭素への新規投資は進まないだろう。制度創出は待ったなしではないか。