2024年波乱の幕開けが教えるインフラ強靭化・電源多様化の重要性
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
年明けから、地震、航空機衝突の災害が続いている。地震は、住宅に加え電気、水道、ガス、道路などインフラに大きな被害をもたらし、被災された方は大変な苦労を強いられている。
厳しい環境下で救助、支援、ライフラインの復旧に当たる自衛隊、警察、消防、医療チーム、インフラ企業関係者、公務員などの方には頭が下がる。
一刻も早い復旧が待たれるなかで、1月4日夕方の岸田首相の年頭の記者会見終了後に出席していた記者から原発に関する質問があったとYahooニュースが伝えた。
記者は、「総理、原発再稼働はあきらめるべきではありませんか。地震大国の日本で原発の再稼働は無理だと今回分かったのではありませんか。答えてください」と発言したと報道されている。
地震国だから、なぜ再稼働を諦める必要があるのか分からない。地震国だからこそ原発の運転を可能にするように、福島第一原発事故を受け安全性は大きく強化された。質問者は強靭化の現状も意味も理解していないようだ。
地震のリスクだけ見ての質問だが、一つの側面だけを見て発言するのは一部の環境活動家の石炭火力廃止の主張にもみられる。石炭火力からの二酸化炭素の排出量が相対的に多い側面だけを見ての主張だが、経済性とか安全保障とか物事を多方面から考えることはできないのだろうか。
地震、津波などの災害が多く、資源に恵まれない日本に必要なのは、火力発電に加え、原発、再生可能エネルギーを含めた電源の多様化による強靭化だ。
多面的思考が必要な環境活動家
気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、環境活動家が「日本は石炭火力の延命を図っている」と主張したとの報道があった後、「日本の電力業界、日本政府は石炭火力の廃止による脱石炭に後ろ向き」と伝えたマスコミがあった。
この主張にどう反論すればよいのだろうか。「政府、電力会社が石炭火力の廃止に消極的理由は、生活と産業を考えてのことです」「電力会社はコストが安い石炭を利用し発電していますが、そのコストを反映し電気料金も安くなっています」と簡単に答えるのが分かり易いだろう。
石炭火力を廃止すれば、その発電量分を何かで発電しない限り停電することになる。電気は需要がある時に必ず発電する必要があるからだ。
石炭火力に関し考えるべき点は、3つある。環境活動家がこの点を理解すれば、延命などと非難することもないだろう。
一点目は、電気料金の問題だ。海外から輸入される石炭の価格は、石油、液化天然ガス(LNG)との比較では価格競争力を持っている(図-1)。欧州エネルギー危機が石炭の価格を史上最高まで引き上げたが、長期的には常に安い燃料だ。他の電源に切り替えれば、電気料金は上昇する。
二点目は、日本の石炭火力設備は、他の主要国よりも新しいことだ(図-2)。経済合理性からして、新しい設備を廃棄することは難しい。もし実行すれば、当然だが電気料金の上昇を引き起こす。
三点目は、日本の石炭火力は海外から輸入される石炭を燃料としていることだ。脱石炭を行う欧州諸国の設備は基本的に国内の石炭を燃料としていた。採炭状況の悪化により石炭生産がなくなった欧州主要国は、燃料もなくなった老朽化した設備の廃棄も進めた(脱石炭に向けた途上国の本音、アメリカの本音 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp))。
欧米諸国と日本の石炭火力の事情は大きく異なっている。国により自給率も、燃料調達の事情も、電源の構成も大きく異なる。一律に脱石炭、脱炭素を行うことは難しいに決まっている。
国家にとり重要なことは国民生活
COP28に関する話題として化石賞が報道されている。例年、日本のメディア以外誰も報道しない賞だ。COP会場に出かけた日本のメディアは他に報道することを見つけられないので、世界では誰も注目しないこんな賞を報道するのかと勘ぐってしまう。
もっとも、活動家も日本以外のメディアに無視されることに危機感を覚えたのか、今までの日本、欧米諸国に加え、2023年にはニュージーランドに化石賞を与えた。おかげで海外でもニュージーランドの一部のメディアだけは、化石賞を報道した。
ニュージーランドの受賞理由は、石油・天然ガスの海洋探査活動の再開にあるが、世界がロシア発のエネルギー危機に陥る中で自給率を高め、エネルギー供給を強靭化する活動は、国家として当たり前の選択肢だ。二酸化炭素以外の問題を考えることがない環境活動家には、安全保障とか価格はどうでも良いのだろう。
環境活動家は温室効果ガスが減るのであれば、エネルギーがなくなり車が走らなくなっても、電気料金が何倍になっても、国民生活が困窮しようが問題ではないと考えているのだろうか。航空機が飛ばなくなればCOPにも参加できず化石賞も発表できなくなるが、CO2が減るのであれば受け入れるのだろうか。
日本はアンモニアにより石炭火力の延命を図っているという受賞理由は、日本のメディアに賞を取り上げてもらうためのこじつけに見える。日本の石炭火力は、まだまだ使える。国民生活のため競争力のある設備を利用することは、インフラ企業の使命だし、政府の政策も当然それを支持するだろう。
国民生活に必要な電源の多様化
1月1日の能登半島地震発生直後、北陸地方では電力供給が不足する事態になった。七尾大田石炭火力発電所の楊炭設備(石炭を荷揚げする設備)などが被害を受けたためだ。地震直後関西電力から融通が行われ、送配電設備の被害による停電は発生したものの大規模停電は免れた。関西電力管内で稼働している7基の原発がなければ、電力融通も難しかったかもしれない。
災害がある国だからこそ、多様な電源による災害に強い電力インフラが必要だ。海外からの燃料受け入れに必要な港湾設備が震災により被害を受けると火力発電所は運転ができなくなる。楊炭機械など大型設備が被害を受ければ、時には設備の復旧に年単位の期間が必要になる。
しかし、一度燃料を装着すれば数年運転可能な原子力の電気は自給率にカウントされ長時間供給可能だ。東日本大震災による教訓を受け原発の安全性は大幅に強化された。地震国だからこそ原発の安全性を確保し、安全な停止とその後の運転継続を可能にする非常時の電力、水供給機能の確保、水密扉導入などが行われている。今回の地震では関西電力の原発の運転に影響はなかった。
地震国だから再稼働は無理というのは事故からの学びにより対策が進歩するという事実、さらには小型モジュール炉のように安全性が強化された新技術が導入されるという将来計画を見ない発言だ。脱炭素、自給率向上のためには再生可能エネルギー設備も当然必要になるが、エネルギー価格を抑制する必要性を考えると石炭火力、原子力発電の電気の利用は避けて通れない。
脱石炭、脱原発の主張の前に電力の安定供給の重要性を良く考える必要がある。私たちは電気がなければ生活できないのだから。