ドイツ企業に必要なESG教育
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2023年10月21日号)
企業経営の基本になるESG(環境、社会、ガバナンス)は、金儲けの手段にもなっているようだ。金融機関はESG投資を売り出し新しい収益源として育てているが、投資対象の企業を選択している基準が曖昧だ。ESGのランキングの評価会社が用いている基準もバラバラだ。グリーンウオッシュと呼ばれる、みせかけのESGへの取り組みも懸念されている。ESGランキングと収益力には大きな関連はない。普通の企業であれば事業を通し環境にも社会にも貢献しているだろう。
胡散臭いESGだが、企業が事業を通し環境と社会に関する実現すべき目標を持ち、それを実現する統治組織を作れと常識的なことを言っているに過ぎない。それを利用し儲けようとする金融機関、コンサルが登場するから、ESGの信頼は揺らぎ怪しく見えてしまう。
企業は、ESGに基づき経営すべきだが、中にはビッグモータのように利益のため顧客から取引先まで騙していた企業もある。街路樹まで伐採していたのでは環境への配慮もないし、不誠実な企業統治は経営計画書を読めば一目瞭然だ。
儲けるためだったら何をやっても良いと考えている企業は、海外にもありそうだ。欧州委員会はロシアに戦費を渡さないため船舶によるロシアからの原油の輸入を昨年12月に禁止した。当然ドイツも遵守し、ロシアからの石油の輸入が急減した。
欧州市場を失ったロシアは、インドと中国向け販売を増やした。特に、インド向け輸出は急増している。今年4月から7月のロシアからの原油輸入量は、昨年の3.5倍。シェアは約40%だ。通関統計ではロシア産原油価格は平均輸入価格を1割以上下回っている。
インドは自国の消費のためだけに買っているわけではない。今年1月から7月のドイツのインドからの石油製品の輸入額は、昨年同期の12倍になった。なんのことはない、ドイツはインド経由相変わらずロシアに金を渡している。対ロシア制裁の見事な抜け穴だ。儲けるためだったら、何をしても良いということではないだろう。ドイツ企業はESGの精神を学ぶべきだ。