システム改革検証、手掛かりに
書評:公益事業学会関西若手研究会 編『公益事業の再構築-K.G.りぶれっと No.57』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(「電気新聞」より転載:2023年9月1日付)
国民生活と企業の生産活動に必要不可欠な財・サービスを提供する事業を「公益事業」と呼ぶ。水道、交通、情報通信などのインフラ事業であり、高額の設備投資が必要とされ、生産量を増やすことで生産量1単位当たりの平均費用が低減するなどの特徴から自然独占性を認められてきた。政府や自治体が運営する公企業が事業の主体となる、あるいは規制による政府の強い関与の下で民間企業が担ってきたのも、そうした特徴による。
社会の成長の停滞や技術の進歩によって、公益事業にも競争原理を導入し効率性を追求すべきだと考えられるようになった。近年の電気事業を巡る改革でも、公益事業の特性が顧みられることは極めて少なく、公益性をうたうことは旧来の価値観に拘泥し効率性向上に反するとして批判の対象となることも多く見受けられた。
しかし、競争原理の導入が進むに伴って、改めて公益事業のあり方が問われている。きっかけは気候変動問題に対する危機意識の高まりや、コロナ禍、ウクライナ危機等であったかもしれないが、競争に任せるべき領域とそうでない領域を丁寧に議論することの必要性が認識されつつある。
こうした状況を踏まえ、公益事業学会関西若手研究会が上梓した本書は、手軽なリーフレットでありながら、極めて端的に公益事業の特徴や課題を整理し、その再構築に向けた提言を行っている。電力システム改革について、当初の目的を十分に果たせているとは言い難いと評した上で、しかし、「地域独占・総括原価の時代に戻ることは、あまりにリスクとコストが大きく、実質的に不可能」であり、「市場制度を適切に再整備するしかない」としている。筆者も同様の意見であるが、適切な再整備に向けてはまず、これまでのシステム改革の経緯を検証し、なぜ電力システム改革が当初の目的を達せられない状態に陥ったのかを明らかにする必要がある。
わが国は政府も民間企業も、失敗の検証を怠りがちだ。拙著『電力崩壊―戦略なき国家のエネルギー敗戦』(日本経済新聞出版社)では、現下の電力危機と太平洋戦争の共通項として、わが国の意思決定が陥りがちな「クセ」があるのではと指摘した。改革を前に進め、技術革新を取り込み、社会の変化を後押しするような新たな公益事業を構築するためには、まずこれまでの議論を検証すべきであり、その端緒として本書を手に取ることを強くお勧めしたい。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『公益事業の再構築-K.G.りぶれっと No.57』
公益事業学会関西若手研究会 編(出版社:関西学院大学出版会)
ISBN-13:978-4862833624