脱炭素先行地域で取り組むダム流域の活性化


鳥取市経済観光部スマートエネルギータウン推進室 室長

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 鳥取市は、「鳥取砂丘」で全国的に有名な人口約18万人の市です(2023年(令和5年)7月時点)。市の中央部には中国山地を源とする千代川が北流して日本海にそそぎ、河口付近には千代川の土砂と日本海からの風・波という自然環境のもとに形成された鳥取砂丘や日本最大の池である湖山池があり、中心市街地に湧出する温泉などと合わせて、独特で豊かな自然環境に恵まれています。

 活性化を目指すダム流域に位置する鳥取市佐治町の紹介をします。
 一級河川千代川の支流である佐治川沿いに26の集落、739世帯が生活する過疎地域です。美しく豊かな自然環境に由来する「5つの地域資源:「梨」なし・「和紙」わし・「話」はなし・「石」いし・「星」ほし」から「5しの里」として地域の魅力を発信しています。
 1972年に鳥取県内で初となる治水ダムである佐治川ダムが完成しました。

 気候変動による想定外の降雨などが発生していますが、本年2023年(令和5年)8月15日、日本列島を縦断した台風第7号の影響で、本市は大雨特別警報が発令され、鳥取市全域に警戒レベル5の緊急安全確保が出されました。また、貯水量が上限に達する可能性があるとして、佐治川ダムの緊急放流を行うことになりました。佐治町では、降り始めから8月16日朝までの降水量が519.5ミリと、8月の平年降水量の約3倍にあたる記録的な大雨となり、各地で土砂崩れなどが発生し、本市佐治町など合わせて約1,800人が一時孤立状態になりました。

 佐治町は、2004年(平成16年)の市町村合併時から人口が約40%(約1,100人)減少し、65歳以上の高齢化率も50%を超えています。人口減少に伴い、需要が縮小し、公共交通においては、利用者の減少が便数の減少につながり、さらに利用者の減少につながるという悪循環が起きており、様々な生活関連サービスが撤退し生活利便性やコミュニティ機能の低下が顕著に起きています。
 2022年(令和4年)10月末にはJA系のスーパーが閉店し、本年2023年(令和5年)1月には町内にある唯一のJA系ガソリンスタンドが閉鎖しました。
 このように、中山間地域の再生・持続モデルの構築が喫緊の課題となっており、佐治町のような河川の上流域は、人が住めなくなり、田畑や森林はさらに荒廃が進むことが懸念されます。
 中山間地域が国土の約7割を占めていることを考えると、これは日本国内全体の課題でもあり、下流域の暮らしも脅かしかねない課題ではないかと思います。

 本市は、このような課題解決に向けて、佐治町全体面積の約9割を占める森林や降水量の多い地域特性に基づく水資源などの豊かな自然環境を活用し、脱炭素投資を行うため、2030年度までに脱炭素化と地方創生の同時実現を目指す環境省の「脱炭素先行地域」に応募し、第3回目に選定されました。今年度から、2028年度(令和10年度)までの6年間環境省の交付金最大50億円を活用して事業を行います。
 本市脱炭素先行地域計画の内容ですが、上流域の佐治町エリアと1989年(平成元年)にまち開きをした下流域のニュータウン・若葉台エリアを先行地域として、再生可能エネルギーを最大限産み出し、市内でも有数の電力需要地である下流域の若葉台エリアとの関係性の中で、再エネの地産地消と民生部門の電力使用に伴うカーボンニュートラルを目指します。若葉台エリアの電力消費を通じて佐治町エリアに資金が還元され、上流域のさらなる再エネ投資の促進や電力を活用したモビリティサービス等の充実につなげ、上流域と下流域の互恵関係を構築することで、両エリアの均衡ある発展と地域全体の底上げを目指します。

 既存インフラと小水力発電など新設再エネ設備を最大限活用し、コミュニティーバスや公用車の電気自動車化を進めるほか、木材チップが原料の木質バイオマス熱電併給設備を使い、作られた熱を施設園芸に活用するなど、農林業振興につなげ中山間地域の再生・持続モデルの構築を目指します。
 木質バイオマス熱電併給設備の熱を活用したスマート農業で付加価値の高い農産物を生産するとともに、観光農園としても運用し、新たな流入者の増加や関係人口の創出を図りたいと考えます。

 ダム流域の持続可能なまちづくりをするためには、地域の中に暮らしていける仕事・雇用を創出することが重要と考えます。佐治町エリアに広がる森林資源を活用し、バイオマス熱電併給設備の導入とスマート農業を実施し、地域おこし協力隊制度(総務省)の活用や農林高校と連携しながら林業従事者の育成に取り組み、木質バイオマスチップの製造と、供給される電力と熱をカーボンニュートラルファームでのスマート農業に活用します。スマート農業で付加価値の高い農産物を生産するとともに、観光農園としても運用し、新たな流入者の増加や関係人口の創出に取り組みます。佐治町の森林資源もエネルギー代金として地域内循環する仕組みを構築することで「中山間地域の再生・持続モデル」を目指したいと考えます。

 地域の課題を解決し、地域の再生を図るためにも脱炭素投資で社会価値を生みだしていかなければなりません。
 地域の再エネポテンシャルを最大限活用した脱炭素投資により電気と熱を生み出します。
 それにより地域電源設備の拡充、再エネ電源を活用したモビリティの電動化といった流域インフラの更新と連携を図ります。また、再エネ由来の電気や熱を一次産業の振興に結びつけることで、森林や耕作地など国土の保全機能の維持を図ります。
 そこから、地域経済も活性化させ、暮らしぶりの向上や災害耐性の向上にもつながるという、環境・経済・社会を統合的に向上させ、上流域と下流域が連携することで新たな社会価値を生み出し、流域全体の豊かな暮らしを維持しながら持続可能な地域づくりを目指します。
 再エネポテンシャルが豊かな中山間地域ほど系統の空き容量が限られるなど、多く課題を抱えている“過疎先進地”において、再エネ導入最大化と地域再生を両立する“鳥取モデル”を確立し、この取組が全国モデルとなるよう最大限努力をしていきたいと考えます。