日本のエネルギー継戦能力は
書評:石平、峯村健司 著『習近平・独裁者の決断』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(「電気新聞」より転載:2023年8月18日付)
中国の習近平政権は、これまでの慣例を覆して3期目(2023年から27年まで)に入った。この間に中国が台湾併合に動くとの見方が高まっている。
本書は、中国の公式文書や人事に基づいて、習近平政権が台湾に軍事侵攻するリスクは極めて高く、する・しないの問題というより、いつするか、という時間の問題だと論じる。以上は佐藤正久自民党外交部会長なども述べているが、本書は、それに加えて、台湾統一は習近平氏自身の最重要な関心事でもあり、また、中国国民の幅広い支持があることを指摘する。中国人の思考様式を熟知した、筋金入りの専門家の識見には恐るべき説得力がある。
さて米中軍事衝突のリスクが高まると、米軍の空母機動部隊は台湾付近から退避し、グアムまでいったん下がる。なぜか。いま台湾付近での通常戦力バランスは中国が米国を上回っており、就中、中距離ミサイルについては中国2000発に対して米国はゼロという圧倒的な中国優位の状態で、空母が撃沈されてしまうからだ。
ということは、日本付近の制海権はかなり失われる。日本に向かう輸送船が、ミサイル、ドローンなどで攻撃を受ければ、日本への海上物資輸送は滞ってしまう。
軍事的でなく、政治的に台湾が統合される場合でも、中国は西太平洋における軍事的プレゼンスをますます高めることになる。
いずれにせよ、日本のシーレーンは脅かされる。ここで輸送船をいくらか沈めれば日本はすぐ屈服する、と中国に思わせては絶対にいけない。そう思わせてしまえば実際に戦争になる。負けない備えをして、中国にあらかじめ見せつけておかねばならない。
日本のエネルギーの9割はいま化石燃料である天然ガス、石炭、石油である。発電も75%が化石燃料に頼っている。そして化石燃料資源の事実上ゼロの日本は、ほぼ全量を輸入に頼っている。
原子力は燃料輸入が途絶えても発電を続けることができる。テロ対策は原子力設備だけで強化しても意味が乏しい。日本は、(1)原子力発電の再稼働(2)石油、石炭、原子燃料の備蓄強化(3)全てのエネルギーインフラのテロ対策の強化の3つに速やかに着手すべきだ。
1年間の戦争を戦い抜けるエネルギー継戦能力があれば、それは抑止力の一部になる。中国は日本に手を出しにくくなり、恫喝も通用しなくなる。平和のためにこそ、戦争への備えが必要だ。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『習近平・独裁者の決断』
石平、峯村健司 著(出版社:ビジネス社)
ISBN-13:978-4828425115