IPCCの台風激甚化という誤情報

これほどまでに深刻な品質管理の失敗は、到底許されるものではない。

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア 
https://rogerpielkejr.substack.com/p/misinformation-in-the-ipcc
 を許可を得て邦訳したものである。

 先週、私は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)の統合報告書(SYR)を概観して、この重要な組織に改革の時期が来ていると考えていることを述べた。

 IPCCは重要だ。気候変動は深刻な問題であり、緩和政策や適応政策のためには正確な科学に基づく必要があるからだ。

 これから2回に分けて、IPCCが熱帯低気圧に関するいくつかの誤解を招くような発表をしたことを説明したいと思う。IPCCの失敗は明白であり、否定できない。その詳細について説明する。繰り返すが、私はIPCCに改革が必要だという結論に達した。このような大規模な評価報告書であれば間違いが生じることは確かにあるだろうが、以下に記すような失敗は絶対に許されないのだ。

 1つ目の失敗は、AR6(WG1)の報告書の第11章の中に埋もれていたもので、それほど目立つものではなかった。だが2つ目の失敗は、少しテクニカルなものであるが、WG1報告書と先週発表された統合報告書の両方の政策決定者向け要約(SPM)に記載されているもので、重要な影響があった。

 話を進める前に、IPCCは単なる1つの報告書でもなければ、ひとりのグループでもないことを再確認しておこう。IPCCはさまざまな分野の、多くの人々によって構成されている。その成果物は不均質であり、同じ報告書の中の個々の章の中でさえも、科学的な質は大きく異なることがある。例えば、一般的にIPCC AR6 WG1は異常気象の物理科学的側面について優れた成果を出していたが、IPCC AR6 WG2には大量の問題が山積みであったりする。

 私はIPCCを支持し、全体的に質の高いものであってほしいと願っている。私たち皆には、IPCC自体が高い水準に達していないときには、それを声高に訴える責任があるのだ。 なぜなら気候変動は、質の悪い科学が世界有数の科学評価報告書に登場することなど許されないほど、重要な問題だからである。

 コーヒーを片手に席に着いて、さあ、始めよう。

IPCCによる文献のつまみ食い

 IPCCは科学文献をレビューすることになっている。そこでは、著者が物語を構築するために、使用したい研究の一部分だけを含めることは許されない。またIPCCは、著者が不都合だと思う人の研究を無視してはいけない。しかし、米国のハリケーンに関しては、IPCC AR6 WG1は、明らかに、文献のつまみ食い、都合の良いとこ取り(チェリーピッキング)をした。

 以下は、IPCC AR6 第11章 において、米国のハリケーンについて述べたものである:

1900年以降に米国に直接影響を与えたハリケーンに対応するベストトラックデータのサブセットは信頼性が高いと考えられ、米国に上陸する事象の頻度に傾向は見られない(Knutson et al.、2019)。しかしながら(however)、曝露された資産の時間的変化を考慮した標準化された米国ハリケーン被害が増加傾向(Grinsted et al., 2019)にあること、そして米国陸上の台風の移動速度が減少している傾向(Kossin, 2019)が、この期間に確認されている。

 気を付けて読んでみて欲しい。「しかしながら(however)」という言葉は、正規化された米国のハリケーン被害の記録が、ゴールドスタンダードである「ベストトラックデータ」と矛盾するために使われることを示唆している。しかしそれでは、まさに話が逆だ。経済損失データを使って気候の傾向を推測することはできないし、ましてや実際の気候データの妥当性を評価するために使うことはできない。IPCCはそれをよく心得ているはずだ。

 しかし、もっと酷いことがある。

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