再エネ賦課金額は減ったけれど、電気料金が下がるわけではありません
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
太陽光発電、あるいは風力発電などの再生可能エネルギーの導入を支えるため、再エネ設備から発電された電気を予め合意された買取価格で購入するのが固定価格買取制度だ。買取に要した費用は、再生可能エネルギー賦課金額として電気料金から支払われている。賦課金額は毎年計算され、見直しが行われている。
2023年度の再生可能エネルギー賦課金額が決まったニュースを伝えるメディは、すべて「ひと月の負担額は800円程度減額」と伝えた。
例えば、日本経済新聞は「電気代の再エネ賦課金、初の減額 標準家庭で800円減」、読売新聞は「平均的使用量の家庭で月820円負担軽減…再生エネ賦課金、1kW時あたり2.05円減に」と伝えた。
昨年の数字を覚えている方であれば、2.05円減で820円を不思議に思われたのではないだろうか。昨年は1kW時当たり3.45円。エネ庁の発表は「需要家モデルの負担額を見ると月額897円(+24円)、年額10,764円(+288円)となります」だった。この計算だと、今年の負担減は533円になる。
昨年までは需要家モデルのひと月の電力使用量は260kW時だったのだが、今年は需要家モデルのひと月の使用量は400kW時に変更されている。
エネ庁の説明は、「総務省家計調査に基づく一般的な世帯の1ヶ月の電力使用量」とされているが、なぜ今までも毎年公表されている家計調査の数字を利用していなかったのだろうか。
2022年度の負担額は、月額1380円。年間では1万6560円だったことになる。「賦課金額の減少を大きく見せるため需要家モデルの消費量を変えたのでは?」と思うのは、下衆の勘繰りなのだろう。
電気料金が下がる訳ではない
私たちの負担額が減少したのは、化石燃料価格が上昇したためだ。再エネの電気を買い取ると、その分だけ化石燃料を使う火力発電所の発電量が減少する。そうすると燃料費が節約できるので、その節約分を再エネの電気の買取額から減額し、消費者負担額を計算することが必要だ。欧州発のエネルギー危機により、日本の発電量の約3分の2を賄う石炭、液化天然ガス(LNG)火力(図-1)の燃料費が上昇したため節約できる燃料代が大きくなり、その分私たちの負担額が減少したのだ。電力の卸価格で表される節約できる燃料代は回避可能費用と呼ばれる。
図-2が買取費用の内訳を示しているが、簡単に言えば、化石燃料価格が上昇したため、再エネの高い買取額が目立たなくなってきたということだ。もっと簡単に言えば、電気料金が上がっているのだ。化石燃料価格が値上がりし再エネの賦課金額が減っても、電気料金が下がる訳ではない。
欧州の暖冬と節エネのおかげで化石燃料価格が下落しているので、これ以上電気料金が上がることは当面なさそうだが、仮にさらに化石燃料価格が上昇すると再エネの買取額が卸価格よりも安くなることもあり得る。
ただし、再エネ導入増には送電線とかバックアップ電源が必要になり、その費用も掛かるので、買取額が相対的に安くなっても全体の再エネのコストは別の話になる。再エネの電気を消費者に届ける時のコストは、原子力とか火力の電気よりは高くなる。
増える買取費用
というわけで、再エネの買取費用が減っている訳ではない。2012年の制度の導入以降、再エネの1kW時当たりの買取単価は減額が続き、買取制度も見直されているが、買取期間の終了を迎えた再エネ設備は少なく、累積の設備は増えている。そのため総額の買取金額も増加している。
例えば、家庭用太陽光発電設備であれば買取期間10年なので、そろそろ買取期間が終了する設備が出ているが、設備の大半を占める事業用太陽光の買取期間は20年間なので、最も早い設備でも2031年終了だ。
2023年度までの再エネの買取費用と1kW時当たりの賦課金額単価の推移は図-3の通りだ。事業用太陽光発電設備を中心に国民1人当たり十数万円の負担を行っている。化石燃料価格の上昇により賦課金額が減少するのは、必ずしも喜ばしい事態でないことは確かだ。