独緑の党はどこに行く
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2023年2月1日号)
ドイツは褐炭生産国でありながら脱石炭に熱心な国だ。石炭火力閉鎖年を2038年に定め、可能ならば30年に前倒しする目標を立てている。しかし、ロシアの戦争はドイツの脱石炭政策を大きく揺るがすことになった。
ロシア依存度が高い天然ガス消費抑制のため、原発の短期間の稼働延長に加え、石炭・褐炭火力の利用増を図らざるを得ない状況だ。褐炭・石炭火力のシェアは、20年の24.2%から21年29.5%、22年33.0%と上昇を続けている。米国、豪州などから輸入される石炭は急増している。価格は高騰し日本も影響を受けている。
褐炭は国内生産なので生産数量を増やすしかない。昨年共に緑の党出身の連邦政府のハーベック・経済・気候保護相と炭鉱のあるノルトライン=ヴェストファーレン州政府副首相、炭鉱を持つRWEが協議しリュッツェラート村にある炭鉱の生産拡大に合意した。
この決定に怒ったのがグレタ・トゥーンベリなどの環境活動家だ。拡張に反対し2年以上前から現地で抗議活動を展開していたが、1月15日にはグレタも現地に乗り込み1万5000人(警察発表)が抗議活動を行った。全国から動員された警察官は催涙ガスで活動家を排除し、活動家8名が救急搬送され、警官隊にも70名以上の負傷者が出たと報道された。
脱原発、脱石炭を党是とする緑の党もエネルギー危機の前には無力だった。昨年2月のロシアのウクライナ侵攻後、緑の党の支持率は16%から6月23%まで上昇したが、今年1月調査では18%に下がった。抗議活動参加者からは「裏切られた」「二度と緑の党には投票しない」との落胆の声が聞こえた。原発の継続利用を決めた連立政権の現実路線は一旦評価されたが、緑の党の岩盤支持者は徐々に離れたということだろう。
エネルギー危機が明らかにしたことは、緑の党の右往左往ぶりがよく表しているが、安定供給と価格は、環境問題よりも優先されるという現実だった。50年脱炭素を目指す日本も、政策の中で何が優先されるのか考える時だ。