エネ政策の検証、緊張の冬に
書評:井伊 重之 著『ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞より転載:2022年12月2日付)
電力危機の冬が近づいている。この事態に至った経緯を検証したり、今後のあるべきエネルギー政策について論じる論考や出版を多く目にするようになった。私事で恐縮だが、筆者自身も2022年12月下旬に、エネルギー変革を巡る「第三の敗戦」を迎えつつある現状に至った経緯と回避策を考える書籍を上梓する。同じようなタイミングで、同じようなテーマでの上梓になるが、こうした分析が複数の視点で行われることは非常に有意義なことだと感じる。政策の検証と反省が苦手で、ともすると水に流してしまうのがわが国の特性だが、電力という重要な社会インフラをこのように脆弱な状況にした理由は深く検証する必要がある。
本書は2022年3月22日に起きた需給逼迫を入り口に、これまでのエネルギー政策を広範に検証している。エネルギー取材歴が長い著者ならではだろう。直接聞き取った政策関係者の声を取り入れ、理論や理屈通りにいかない舞台裏を知ることができる。こうした声が全てではないだろうが、この10年エネ政策は多分に「政治ショー」に巻き込まれてきたことがうかがえる。
電気事業という巨大インフラは、国民に与える影響が大きく政治・行政がしっかりと監視する必要がある。一方で、電気事業という巨大インフラの担い手に政治・行政が鉄拳を食らわすという構図を描くことで国民の批判を避けようとする意図がなかったか。持続可能な社会への転換には政治の強いリーダーシップが必要だが、一方で、未来の世代のために環境に取り組む姿勢は世論受けが良いという「下心」はなかったか。
国民生活・経済を支えるライフラインのあり方を議論するにあたって、もしそんな動機があったとすれば、この国の将来を憂うよりほかない。
「日本の電力不足は危機的状況だ。ブラックアウトはいつ起きてもおかしくない。脱原発、再エネ拡大、電力自由化―行き過ぎた政策が、日本を急激に弱体化させている。電力インフラを強靱化しなければ、国の進路は危うい」と本書が最大限の警鐘を鳴らしているのは、こうした弱体化がエネルギー以外の分野にも及んでいることを危惧しているからであろう。
著者は電力の現場に足を運び、そこで設備運営に携わる方たちを「電気の防人」と呼んでいる。全国の電力の現場で、近づきつつある冬に向けて緊張感を高めている防人たちにも、本書を手に取っていただければと思う。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体』
井伊 重之 著(出版社:ビジネス社)
ISBN: 978-4828424590