風力発電が野生動物と自然に与える悪影響
ベルリンセミナーの報告より ベニー・パイザー博士編
印刷用ページ
監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子
本稿は、The Impact of Wind Energy on Wildlife and The Environment: Papers from the Berlin Seminar, The Global Warming Policy Foundation Report 35を、The Global Warming Policy Foundationの許可を得て翻訳したものである。
はじめに
フリッツ・ヴァーレンホルト German Wildlife Foundation
本書は、これまで政策立案者だけでなく、ドイツの自然保護団体にとってもタブーであったテーマを取り上げている。再生可能エネルギーは二酸化炭素の排出を減らすと考えられているので、その環境破壊的な影響については、これまで広く議論されることはなかった。
再生可能エネルギーは、一般的にそれ自体が良いものだと考えられている。これは、私自身の経験から言えることでもある。私は12年間、再生可能エネルギー業界で主導的な立場にあり、何千メガワットもの風力発電所やバイオマス発電所を委託してきた。一方でそのために起こる環境への負荷が問題になることはなかった。しかし、最近では、バイオ燃料やバイオガス生産のための菜種やトウモロコシの単一栽培による悪影響が明らかになり、パーム油生産のための熱帯雨林の伐採と焼畑による影響も明らかになっている。水力発電が環境に与える影響も広く知られるようになってきた。しかしながら、鳥やコウモリの生息地やその近くに風力発電所が建設された場合、それらの野生動物に致命的な影響を与えるということは、まだよく知られていないのである。
The German Wildlife Foundationは、一般的に風力エネルギーに反対しているわけではない。もちろん、そのほかの様々な技術にも反対しているわけでもない。しかし、自然環境におけるエネルギープロジェクトの無秩序な拡大には反対である。こうした拡大の動きは、特にドイツにおいて、今日ますます顕著になってきている。
近年、特にヘッセン州の丘陵地帯では、風力タービンの大半が森林の中に建設されている。企業や政府にとって、このような場所は最も簡単な選択だ。なぜなら、反対する住民がほとんどおらず、ほとんどの場合、その森林は地域、県、または州に属しているからである。さらに、地主が風力タービンのために土地を貸し出すことで、非常に高い利回りを得ることができるのだ。
また、連邦政府は、風力タービンを2倍から3倍に増やす計画を立てている。現在、ドイツには2万8,000基の風力タービンがあるが、これが5万基から7万基に増加する可能性がある。ドイツでは、平均して2.6kmに1基の割合で風力タービンが設置されていることになるのだ。しかも、ボーデン湖や都市部には風力発電所を建設できないため、その密度は自然環境下でさらに高くなる。
このことが自然界に悪影響を及ぼすことは明らかである。ここに掲載された論文は自然や野生動物がこの拡大によってどのような脅威にさらされているかを明らかにするものである。
風力タービンに絡む前代未聞の事態を指摘したい。飛翔する移動性の昆虫は、60メートル以上の高さまで上昇し、より遠隔地まで移動してから産卵することができる。チョウのオオカバマダラもそうだし、テントウムシもそうだ。この方法は、これらの昆虫が食物競争なしに新しい環境を見つけることができるように進化したもので、何百キロも遠くまで移動することも可能である。何百万年もそのようにしてきたのだ。
しかし、現在では、高度100mの風車にこのような昆虫たちがぶつかり、その死骸が時期によってはタービンのブレードに付着し、エネルギー収量を大きく低下させる原因となっているのだ。私がドイツ第2位の風力発電メーカーであるREPower社のCEOだった頃、少なくとも年に1回、時には年に2回、ブレードをきれいに洗浄するための新しい技術を開発しなければならなかった。
これまでの研究では、約1,200億匹(約3600トン)の移動性昆虫が殺されていると推定されている。この殺処分率の大きさを知ってもらうために補足すると、それはおよそ5%だ。はっきり言おう。移動性昆虫の5%がこの方法で殺されているのだ。これは重要な事実であり、きちんと調査する必要がある。The German Wildlife Foundationは、風力タービンの急速な拡大と、過去20年間で飛翔性の昆虫が75%減少したと推定されることとの間に相関関係があるかどうかを調査する予定である。結局のところ、私たちはこの劇的な変化がもたらされた主な理由をまだ探しているところなのだ。実際のところ、何が原因なのか?農業なのか?土地の開墾なのか?単一栽培によるものなのか?それとも、タービンと関係があるのだろうか。もしそうであれば、鳥類の栄養基盤にも重要な間接的影響があるはずだ。この報告書の焦点の一つである鳥類への風力タービンのもう一つの影響と言える。
ベニー・パイザー Global Warming Policy Foundation
ロンドンに本拠を置く教育シンクタンク、Global Warming Policy Foundationは、風力エネルギーや再生可能エネルギーについて、何ら立場を表明するものではない。反対も推進もしない立場である。しかし、私たちは長所と短所を比較検討することに賛成している。従来のエネルギー生産であれ、再生可能エネルギーであれ、どのようなエネルギー生産にもコストとメリットがあり、また、どのようなエネルギー生産にも環境問題がつきものである。
今日、私たちが直面している大きな問題の一つは、これらの問題のいくつかがタブー視され、特定のトピックをオープンに議論できない時代に生きていることである。歴史上、社会が開放性の欠如や検閲に直面するたびに、重大な過ちが避けられなかった。結局のところ、問題についてオープンに話すことが許されている場合にのみ、失敗から学ぶことができるのである。その意味で、あらゆるエネルギーによる発電の長所と短所をオープンにすることは非常に重要である。何が合理的で何が非合理的か、政治家も一般の人々も、その長所と短所を比較することによってのみ、より良い判断ができるようになるのである。
私たちは、風力エネルギーに反対しているわけではない。風力エネルギーが理にかなったものであれば、それを利用すべきである。そして不合理で破壊的なものであれば、避けるべきである。問題は、プラスとマイナスの影響を十分に理解していないことが多いということだ。この報告書によって、読者が、ドイツと国際的な動向の両方をよりよく理解し、関心を持つ一般の人々が、こうした自然保護の特殊な問題についてよりよく理解できるようになればと願っている。
※ 続き(全文)はこちら「風力発電が野生動物と自然に与える悪影響」からご覧下さい。