気候モデル:誰もが知っておくべき10項目

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 気候モデルが一般に知られるようになった切っ掛けは、米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さんが2021年のノーベル物理学賞を受賞したことだろう。真鍋さんは物理法則に基づき気候のシミュレーションを行い、二酸化炭素の気候に与える影響を解析するモデルを作った。
 気候モデルは一躍有名になったが、モデルにはさまざまな問題もありそうだ。アンドリュー・モンフォード氏が気候モデルをどう考えればよいのかの視点を提供している。序文を掲載しているので、本文をキヤノングローバル戦略研究所のリンク先でお読みいただければと思う。

監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿は、Andrew Montford, Ten Things Everyone Should Know About Climate Models, The Global Warming Policy Foundation Note 32
「Ten Things Everyone Should Know About Climate Models (thegwpf.org)」を、The Global Warming Policy Foundationの許可を得て翻訳したものである。

【序 文】

スティーブ・ベイカー、英国下院議員(保守党)

 国会議員になる前、私は英国空軍の技術士官として耐空性に関わる仕事をした。その後、コンピュータ・サイエンスの修士課程を修了し、ソフトウェア・エンジニアリングの分野でキャリアを積んできた。そのため、ソフトウェア、基幹システム、リスクマネジメント、つまり危機に瀕したときに何をすべきかを決める方法に強い関心を抱いている。
 耐空性工学(訳注:航空機の安全性に関する工学)は重大なビジネスであり、セーフティ・クリティカル・ソフトウェア工学(訳注:安全性確保のための工学)は極めて厳格なものだ。しかし、学問の世界ではむしろ異なることが多いという認識が広まっている。大学の研究室で行われていることは、象牙の塔の外ではほとんど関心を持たれないことが多いので、科学者のソフトウェア工学への取り組み方が、広い世界で起こっていることとやや異なるのは当然かもしれない。なぜ、誰も見ようとしないコンピュータのコードをわざわざ文書化する必要があるのだろうか?なぜ、ユニットテストや包括的なバージョン管理システムを使って開発を管理する必要などがあるだろうか?コーディングの標準?そんなものはない。実験的なアプローチが取られることが多く、コードはしばしば創造の航海の旅の中で書かれ、書き直され、通常、ほとんどあるいは全く文書化されず、厳密なあるいは他の方法での検証も行われないままである。 コードの巨大なブロックが、何の説明もなくコメント・アウト(訳注:注釈分に代えることで事実上削除すること)されているのを発見することもある。これではソフトウェア工学とは言えない。善良な愛好家にはふさわしくないハッキング行為である。
 しかし、我々の自由と繁栄に最も重大な影響を与える政策の裏付けや正当化あるいは政策の実質的な方向付けを、大学の研究者に求める大臣が増えている今、こうした非専門的な基準はもはや容認できるものではない。
 私たちは、新型コロナウイルスのパンデミックの際にそのことを身をもって体験している。政府の科学顧問が提供したコンピュータ・シミュレーションは、そのコードの質の低さと、予測とその後の現実との乖離の大きさから、広く批判を浴びた。ロックダウンを鼓舞し、正当化するために使われた不正確なモデルがもたらす副次的なコストについては、現在もその事後評価が続けられている。
 長期的には、気候モデルの影響の方が、さらに甚大かもしれない。気候モデルの予測に基づき設定されたネット・ゼロ目標は、現在生きている地球上のすべての人類と、まだ生まれてもいない何十億もの人々に影響を与える。もしこれを誤れば、現在も将来も、人類全体がその結果に苦しむことになる。状況はこれ以上ないほど深刻なものとなっている。
 しかし、気候モデルは、多くの新型コロナウイルスのモデルと同じようにエラーが多く、不適切にコード化されていることが明らかになっている。気候モデルの予測が現実と乖離している兆候は以前からあったが、事態は好転していないようだ。ネイチャー誌に掲載された最近の論文によれば、最新のモデルの多くは観測記録と全く相容れないという。しかし、論文では、それにもかかわらず、モデルが環境影響の評価や環境政策の内容に利用されていることも指摘されている。
 アンドリアンドリュー・モンフォードのこの論文は、それゆえタイムリーである。この論文では、気候モデルの問題点をわかりやすく説明し、私たちがどこで間違っているのかを一般の人々に教えてくれている。これを読めば、コンピュータ・シミュレーション(気候やその他のもの)を良い政策の指針として受け入れる前に、格別の注意を払ってもう一度考える必要があると確信できる。

※ 続き(全文)はこちら「気候モデル:誰もが知っておくべき10項目」からご覧下さい。