エネルギー・ドミナンス(優勢)という思想
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
米国共和党でかつてトランプ政権の国務長官を務めたマイケル・R・ポンペオが、ハドソン研究所から「ウクライナの戦争は、なぜ世界が米国のエネルギー・ドミナンスを必要とするのかを明らかにした」という論説を発表した。以下にポイントを述べよう:
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ロシアのウクライナ戦争が激化する中、バイデン政権は混乱と弱腰で対応し続けている。この危機の最中もそれ以前も、バイデン大統領の失敗の中心は、同政権が米国のエネルギーを敵視してきたことだ。
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トランプ政権では、同盟国がロシアのエネルギーに依存しないようにしてきた。 パイプライン「ノルドストリーム2」の完成を制裁して阻止し、米国のエネルギーの独立性と優位性を確立することで、世界で最もクリーンな化石燃料を安価かつ効率的にパートナーに輸送することができた。
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我々は米国エネルギー産業の能力を解き放った。エネルギーの優位性は米国に大きな外交力を与えた。
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バイデン大統領がこの政策を放棄したことで、プーチンは欧州で即座に力を持ち、影響力を持つようになった。 ロシアの石油、天然ガス、石炭の流れは、プーチンの周りを潤し、国内権力を強固にする一方で、消費国、特にドイツに対して直接的な影響力を与え、最悪の場合、戦争への準備資金を調達することになった。
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これは、十分に回避できた状況だった。例えば、欧州諸国は石炭をロシアに依存しており、ロシアは石炭生産量の3分の1以上をEUに出荷してきた。本来、米国はこのような重要なニーズを満たさねばならない。だがバイデン政権は、なおも空疎なグリーンディールのレトリックを続け、国内の石炭産業を潰し続けるのか?
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気候変動について金切り声を上げる進歩的な活動家に後押しされ、バイデン大統領の政権はアメリカの石油、天然ガス、石炭、原子力を敵対視してきた。 もし、これらの経済の重要な部門を妨げるような政策が実施されていなければ、米国も欧州も戦略的にはるかに有利な立場にあり、プーチンのウクライナでの違法な戦争を抑止できたかもしれない。
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アメリカ人がクリーンエネルギーを懸念していることは理解しており、だからこそ、人類のための電力という新しい国策の重要な要素として、自然エネルギーと原子力を支持し続ける必要がある。だが一方で、アメリカの石油と天然ガスは短期的にも、長期的にも答えとなるものだ。
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バイデン政権の歪んだ現実観は、アメリカ経済や安全保障ではなく、気候変動を最優先事項としており、これは悲しいかな変わりそうもない。
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われわれは、米国のエネルギーの力を解き放たなければならない。液化天然ガスやクリーンコールなどのクリーンエネルギーを、欧州やインド太平洋地域の同盟国に輸出する努力を倍加させなければならない。
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もしバイデン大統領がこれを実行する気がなく、現在ホワイトハウスの失敗した政策を動かしている一点集中型の気候変動活動家の言うことばかりを聞いて、国を真にリードする気がないのであれば、我々はそれを共和党の識見によって方向転換させねばならない。それは、我々が次の中間選挙で大勝し、彼の環境に固執したエネルギー政策を覆し、米国のエネルギー・ドミナンスを取り戻すことによって達成される。
さて日本はどうするか。
日本は資源に乏しいので単独ではエネルギー・ドミナンスを達成することは出来ない。だが米国と共にアジア太平洋におけるエネルギー・ドミナンスを達成することは出来る。それは、ポンペオが指摘しているように、液化天然ガス(LNG)、クリーンコール、原子力などを国内で最大限活用すること、そして友好国の事業に協力することだ。この時には、日本の優れた火力発電技術が活用できる。
ポンペオ氏のこの論文を読んでいると、物量で圧倒するという米国らしい発想であるとともに、エネルギーを国家経済の兵站と位置付けているように感じる。兵站を軽視する国は敗れる。これは日本にとって第二次世界大戦の重要な教訓だったはずだ。
これから秋の中間選挙、そして次の大統領選挙を経て、アメリカから世界が変わる可能性はかなり高い。日本は、そのときの対米関係まで予想して、バイデン政権の下でのいまなお脱炭素一本槍のエネルギー政策とは距離を置くべきではないか。