需要側の視点から見たエネルギー供給に望むこと(2)


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーレビュー」より転載:2022年3月号)

前回:需要側の視点から見たエネルギー供給に望むこと(1)

脱炭素政策が招く停電

 欧州エネルギー危機は、多くの国で電気料金、ガス料金の値上げを引き起こした。その原因の一つは、石炭火力廃止、再生エネ導入、天然ガス依存度増加を引き起こした脱炭素政策だった。脱炭素政策の進め方によっては、停電まで引き起こされてしまうことを経験した地域もある。米国カリフォルニア州だ。

 カリフォルニア州は温暖化対策に米国一熱心な州だ。米連邦政府と取り決めを結び、連邦政府よりも厳しい車の排ガス規制を独自に導入し、電気自動車、燃料電池車などCO2を排出しない自動車(ZEV)の導入を進めている。各自動車会社にはZEVの比率が割り当てられており、達成できない時には他社から余剰枠を購入し達成する必要がある。電気自動車メーカのテスラは一時、この余剰枠の売却だけで利益を計上していた。

 さらに、新築住宅には屋根に太陽光パネルを設置することを義務付けるなど、再生エネ設備の導入も熱心に進める一方、天然ガス火力の休廃止も進めている。州政府公共事業委員会の指導の下、電力会社は利用率の低い天然ガス火力を廃止し、系統内の蓄電池に置き換えを進めている。太陽光、風力発電設備からの発電量が余った時に蓄電し、需要が多いときに放電するが、蓄電池の利用時間は数時間程度だ。

 この州政府の温暖化対策のため、20年カリフォルニア州の水力、バイオマス、地熱、太陽光、風力など再生エネの発電量シェアは43%になった(図―2)。全米平均が約20%なので2倍以上だ。もっとも、カリフォルニア州の電気料金も大きく上昇し、21年前半の全米の家庭用、産業用平均の電気料金10.96ドルに対し18.77ドルとハワイ州とアラスカ州を除くと全米一の電気料金になっている。


図−2 カリフォルニア州電源別発電量推移

 カリフォルニア州の電源構成の中で水力が再生エネの主体であった11年の州の平均電気料金は13.05ドル、全米平均は9.9ドルだった。10年間で、カリフォルニア州の電気料金は44%上昇したが、全米平均は11%の値上がりに留まっている。再生エネ導入が料金に大きな影響を与えていることが明らかだ。

 電気料金上昇に加え、再生エネ導入は電力供給にも影響を与えた。20年8月米国西部は熱波に襲われた。8月中旬になり日没後太陽光発電設備からの電力供給が落ち込んだ後、冷房需要を賄う供給量の確保が難しい見通しとなり、停電する可能性があると州の送電管理者が警告する事態になった。8月15日、日没後太陽光設備からの発電量がなくなり、停電が発生した。翌日も停電の可能性があったが、停電を経験した州民が節電に協力したことにより停電を避けることが可能になった。

 停電経験後、州の公共事業委員会は、休廃止が予定されていた天然ガス火力発電所の休廃止中止を電力会社に指示することになった。21年夏にリコール請求がなされたニューサム・カリフォルニア州知事は、もう一度停電が起こればリコールが成立すると言われたことから、節電に協力した企業に対する電気料金の10倍の協力金支出により、停電を回避することになった。脱炭素政策を米国の先頭を切って進めたカリフォルニア州の経験は、再生エネ主力電源化の難しさを示している。

エネルギー政策の目標実現に

 エネルギー政策の目的は、安価に安定的に環境性能に優れたエネルギーを消費者に提供することだ。経済学では、ティンバーゲンの定理が知られている。N個の目標を一つの政策で達成することはできず、N個の政策が必要とされる。発電部門の脱炭素を前提に、経済性と安定供給の確保も達成するには、再生エネ主力電源化だけで、目標を達成することはできない。経済性のために競争力のある電源。安定供給のためにいつも発電可能な電源が必要だ。

 すべての目標を満たす電源はない以上、再生エネだけではなく、多様な電源を組み合わせ、競争力のある電力を安定的に供給することが必要だ。CO2排出量を抑制するため捕捉と貯留装置を備えた火力発電、さらに原子力発電の活用を考える必要がある。再生エネ主力電源化は、欧州で見られた価格上昇によるエネルギー危機を招くことがあり、さらには停電を引き起こす可能性もある。

 欧州、米国のように他国、他地域と広範囲に送電線、ガスパイプラインが連携していない日本は、欧米以上に安定供給が脅かされる可能性がある。温暖化は世界の問題であり将来世代に影響を与えるが、安定供給と競争力のある価格の実現は現世代に大きな影響を与える。エネルギー価格は、企業の経費と収益を通し、私たちの給与にも影響を与えている。日本の平均給与のピークは97年467万円。いま433万円(20年)。平均年収はピーク時より7%下落。主要先進7か国(G7)中最低になり、韓国にも抜かれている。競争力のあるエネルギーを安定的に供給する必要性を踏まえ脱炭素を考える必要がある。