高校生、大学生には幅広い思考が必要


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーレビュー」より転載:2022年1月号)

 文部科学省はグローバル人材の育成を目指すワールドワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業を行っている。その拠点校に指定されている静岡県の高校で開催されるSDGsに関する高校生の国際会議に参加して欲しいとの依頓を受けた。日、米、豪、台湾、シンガポールの高校生のグループが行うSDGsに関する提案のプレゼンテーションの講評を行う一方、温暖化に関する講義を行うようにとの依頼だった。私の勤務する大学のある静岡県のいくつかの高校の生徒が中心になり、静岡県教育委員会が取りまとめを行う会議だったので、参加することにした。

 私が担当したのは、「水、エネルギー」に関する提案の講評だった。まず静岡県の高校生からアフリカの最貧国においては食事前に手洗いをする十分な水がないので、小さなポリ袋に消毒液を詰めて販売する提案があった。この提案には抜けている視点がある。アフリカの最貧国では1日当たり1ドル以下で暮らす人が多く、消毒液を買う所得がないことだ。販売でなく無償で配布するのであれば、広がる可能性はある。

 長崎の高校生からは、きれいな水がない途上国では歯磨きできない人がいるので、キシリトールガムを歯磨き用に販売する提案があった。アジアの途上国では多くの人が川沿いで生活している。夜明けと同時に住民は川に飛び込み洗顔と歯磨きをする。途上国では必ずしもきれいな水で歯磨きをするわけではないのだ。歯磨きのためにガムにお金を使える人がどの程度いるだろうか。

 米国の高校生からは、アフリカでの教育環境改善案として、オンラインでの授業を行う提案があった。サブサハラと呼ばれる地区では未だ半分以上の人が電気がない生活をしているため、オンラインの授業は、残念ながら、実現は難しい。問題を解決するためのアイデアは3つとも良いのだが、途上国の社会が日本あるいは米国とは大きく異なることを知らないため、先進国の目線で問題を捉えている点が大きな欠点だった。

 同じように、全体像を捉えないまま問題を考える高校生、大学生が多くいるのではないだろうか。英国で開催されたCOP26のニュースを見て驚いたのは、日本から高校生が参加していたことだ。コロナ禍の開催であり隔離期間のことを考えた日本の経済団体などの関係者の大多数は参加を見送ったが、高校生は授業の欠席は気にならないということだろうか。また、欧州の関係者からは航空機の利用により二酸化炭素の排出量が増えることから「飛び恥」として参加を見送り、必要なイベントはオンライン開催でよいとの声もでていた。

 日本の高校生グループは、石炭火力廃止のプラカードを掲げていたが、インド、東南アジアなどの途上国は、石炭をこれからも当分使い続ける。競争力のある電気料金が国民生活には欠かせない以上選択肢は限られる。高校生は、この石炭の使用も許せないのだろう。温暖化が進めば、影響を受けるのは自給自足経済で無電化地区も多い最貧国だ。働く人の7、8割は農業に従事している。温暖化の原因を作っていないにも関わらず大きな影響を受ける不合理から最貧国が抜け出すには、自給自足経済から温暖化の影響を受けない産業への転換、すなわち経済性のある電気が必要だ。そのためには、石炭をはじめ化石燃料がまず必要になる。温暖化対策よりも貧困と飢えからの脱失が途上国の優先課題だろう。

 SDGsの目標の第一には貧困の撲滅がある。温暖化は「一分を争う問題」と欧州の人は主張するが、それは欧州だけの視点かもしれない。知の巨人と言われた立花隆さんは、東大での講義で「大学生は、この社会ではまだヒヨコのごとき存在です。実は、まだ世間様のことなどほとんど何も知らない存在なのだということです」と述べている。COPに参加した高校生はこの言菓を噛みしめるべきだ。