ドイツが水素輸入にこだわる理由
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」からの転載:2021年7月7日付)
主要国の2050年実質排出量ゼロ宣言により俄かに注目を浴びたのは水素だ。化石燃料の使用に制限が掛かる以上、各国が燃焼に伴い水しか排出しない水素の利用に乗り出すのは当然だが、中でも欧州連合(EU)は水素連盟を結成し、産業、輸送部門で水素の利用を進める計画を立て2030年1000万トンの生産を目指している。
ドイツは連邦、地方政府資金80億ユーロ、1兆円以上を62の水素製造とパイプライン・プロジェクトに投入すると発表した。アルトマイヤー経済・エネルギー大臣は、「ドイツを世界一の水素大国にする」と述べている。スペイン政府も既に米西合弁事業による水素製造プロジェクトへEU復興資金の一部を投入する計画を明らかにしている。水素製造は電気分解により行われる計画だが、電源は非炭素電源の必要がある。フランスなどは再生可能エネルギーに加え原子力も利用すべきと主張しているが、ドイツなどは反対している。さらに、水素輸入についても意見が分かれている。
6月11日に開催されたEUエネルギー会議では、EU外からの水素輸入を認めるか否かでEU内での対立が明らかになった。フランス、ポーランド、ハンガリーなどは、EU内の水素製造でなければ、相変わらずエネルギーを他国に依存することになり、新しい地政学と他国への技術依存を作り出すことになると反対の姿勢を明らかにした。一方、ドイツは、水素製造のため再エネ導入を行うのは国土の制限から困難として輸入すべきと主張し、会議後豪州との水素輸入に関する覚書に調印した。
フランスなどは、原子力の電気を利用し水素を製造することが可能だが、来年脱原発を行うドイツは、再エネで製造するしかない。いつも発電できない再エネの電気では電解装置の稼働率が下がり、水素製造コストが高くなる。脱原発のドイツは結局他国からの水素にも依存するしかない。天然ガスのロシアに取って代わる国は、豪州だろうか。北アフリカの国だろうか。エネルギーの選択肢を失うと代償は高く付くのではないか。