前提と位置づけられる環境適合性 変化する3Eの考え方


日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット主任研究員

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エネルギーフォーラムからの転載:2021年7月号)

 近年、気候変動を第一の優先課題に掲げる国が多くみられるが、3Eを構成するエネルギーの安定供給や経済効率性の考え方に変化はあるのだろうか。

 世界の120を超える国が2050年までにCO2排出ネットゼロを目指すと宣言している。COP26に向けて各国の気候変動対策や目標が注目を集める中、日本でもエネルギー基本計画改訂の議論が進んでいる。

 エネルギー基本計画の基本的な考え方は、「3E+S」である。安定供給、経済効率性、環境適合性、そして安全性という四つの視点は、日本にとってどれも欠けてはならないものだ。

 しかしながら、世界的な気候変動対策の機運の高まりの中で、安定供給や経済効率性の議論に先んじて、日本では野心的な目標(50年ネットゼロ、30年に13年度比GHG排出量46%削減)が決定された。安全性と並んで環境適合性が疑う余地のない前提と位置付けられるとするならば、その中で安定供給と経済効率性をどのように考えるべきだろうか。

 エネルギーの安定供給という点では、海外から資源(原料)を輸入する限り、その安定的で安価な調達の確保といった元来の要素はネットゼロを目指す世界でも不可欠である。しかし同時に、需要の電化が一層進むことで、新たな要素が加わることも考えられる。例えば、地域単位の電力系統のセキュリティやレジリエンスの確保、希少資源のリユースやリサイクルなどが挙げられるだろう。

 また、経済効率性という点は、ネットゼロを目指す世界では、エネルギーコストの上昇が起こり得ることを認識すべきである。ネットゼロを達成するには、大気中CO2直接回収貯蔵(DACCS)やCCSとバイオマスエネルギーを組み合わせたBECCSなどが不可欠だ。また水素直接還元製鉄の実用化なども必要とされる。今はまだ実装されていない技術の実現を前提とする以上、経済効率性にネガティブな影響の及ぶ可能性も否定できない。ネットゼロを目指す他国も同様の状況に置かれるだろう。そのような中で、競争力のある産業をどのように維持あるいは創出できるかが、注目されよう。

 新たな産業として、クリーンエネルギー分野への期待は著しい。国際エネルギー機関(IEA)が公表した50年のネットゼロに向けたロードマップでは、クリーンエネルギー分野への雇用の移行に言及している。クリーンエネルギー分野での雇用創出(1400万人)が石油やガス、石炭分野での雇用減少(500万人)を補い、雇用が純増すると指摘する。しかし、同分野での雇用に継続性があるのか、また雇用の転換がスムーズに進むのかは、まだ明らかでなく留意が必要である。

 ネットゼロを目指す世界においても、エネルギーの安定供給と経済効率性の重要性は変わりない。しかし、その意味するところは、世界的な潮流を受けて変化しつつある。新たな3Eの考え方を踏まえ、今後のエネルギー政策を評価していくことが求められるだろう。