復興と廃炉 普通に語る勇気を
書評:『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』、『東電福島原発事故 自己調査報告』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2021年3月26日付)
10年目の「3.11」が過ぎた。
いや応なく飛び込んでくる様々な記事や映像に、精神的な負担が大きかった方もおられるだろう。筆者も毎年この時期には、あらためて福島原子力事故と向き合い、そこに学び尽くそうと自分を戒める一方、福島の復興や廃炉作業の進捗を評価し、今後に向けて前向きな議論が必要である、とも感じている。
そうした思いを反映し、今回は2冊の本を取り上げるという禁じ手を使わせて頂きたい。
この事故を学び尽くすという観点からは、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが2月に刊行した「福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書」を紹介したい。原子力安全規制から復興政策に至るまで、各分野への実務家・有識者へのヒアリング調査などを通じ、この10年間が検証されている。
実は同財団は、「新型コロナ対応・民間臨時調査会」も創設して、コロナ危機への政府の対応を検証する報告書を昨年10月に刊行している。わが国のリスク対応の課題を冷静に分析し、批判ではなく課題と改善に向けた提言をし続けていることに、心からの敬意を表したい。
そして、福島復興や廃炉作業の今後を考えるという観点から紹介したいのが、「東電福島原発事故 自己調査報告」だ。
本書の編著者でもあり、社会学者の立場から福島の問題を研究し続けている開沼博氏が指摘する通り、福島問題は語りづらい。絡みづらい。事故を起こした東京電力の関係者はもちろん、電力業界全体が原子力事故や福島の問題に関する「絡みづらさ」に苦慮しておられるのではないだろうか。
しかし、語りづらさ、絡みづらさから、福島の問題に口を閉ざす人間が増えれば、風評やデマに揺さぶられてきた福島復興政策をいつまでもその状態に置くことになる。
悲観的に福島を語ることは容易だ。悲観的に語った方が安全だという雰囲気すらある。しかしそれは「いつまでも被災地じゃない」とせっかく立ち上がった人たちの足を引っ張ることになる。寄り添うフリをして、足を引っ張ることなのだ。
肩に力を入れず、眉間にしわを寄せず、普通の福島を、普通に語る機会を増やしていきたいと思う。その勇気を与えてくれる書としてご一読をお勧めしたい一冊である。
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