自伐型林業を核とした持続可能なまちづくり
堀見 和道
高知県佐川町長
1.地方創生のカギ「自伐型林業」
急峻な山が多い当町は、大規模な森林所有者が少なく、一筆あたりの森林面積も小さいため、集約化による施業が難しく、森林所有者の高齢化などによる山離れが進み、森林整備が遅れています。
当町が「町内の森林で雇用を創る」ことを目的として、自伐型林業の取組を始めたのは2013年。それまで、林業振興に力を入れておらず、「自伐型林業とは?」からのスタートとなりました。自伐型林業とは、自分の山を自分で管理している自伐林家の経営理念と永続的な森林管理の技法を取り入れ、請け負った森林を施業することです。短期的な皆伐は行なわず、施業する森林を長期的に管理し、必要に応じた間伐(択伐)を適切に繰り返すことで100年、200年後に価値のある大径木が育つ山を目指すことから、持続可能な森林経営と言えます。
2.担い手の要「地域おこし協力隊」
自伐型林業の取組を進めるうえで、まずは担い手の確保と育成に取り組みました。2014年度から総務省の地域おこし協力隊(以下「協力隊」という)の制度を活用し、「自伐型林業の推進と実践」という明確なミッションのもと協力隊を採用しており、2023年度までの10年間で、毎年5名程度を受け入れる計画で、本年度中に累計35人(うち女性7人)が着任することになります。
町では、協力隊が任期の3年間で林業に関する必要な知識や技術を習得できるよう支援しています。まず林業に必要な道具に関しては、チェーンソーや防護ズボンなどの基本装備はもちろんのこと、バックホーや林内作業車、ダンプなどの林業機械も、町がリースし、常に使用できる環境を整えています。また、作業道づくり・選木・伐倒・造材・搬出などの一連の技術を習得する学びの場としては町有林を活用し研修を行っています。
現在、協力隊の任期満了者19人のうち10人が町内に定住して自伐型林業に取り組んでおり、今年度で任期満了を迎える2人も町内に定住し、自伐型林業に取り組む予定です。
協力隊任期の3年間で、林業を生業とするための知識と技術を習得することは簡単なことではありませんが、自伐型林業に向き合っている隊員たちの熱意とひたむきな姿勢に行政としても身が引き締まる思いです。
3.森林経営管理法をどう活かすか
2018年5月の国会において「森林経営管理法」が可決され、2019年4月から「新たな森林管理システム」がスタートしています。
当町は、自伐型林業を推進するための重要施策の1つとして、「新たな森林管理システム」に類似する、「行政による森林の集約化」を2015年度から取り組んでいるため、この新法は当町にとって追い風になると考えています。
行政でなければ相続登記ができていない森林の相続人や町外在住の森林所有者などを調べることは非常に困難だと考えており、意向調査が適切に実施されることで所在不明者森林は減少すると思います。
当町では、意向調査を基に希望する森林所有者と20年間の森林長期施業管理契約を結んでおり、集約した森林は、町が目指している持続可能な森林の経営管理と同じ志を持つ担い手(協力隊任期満了者など)に経営管理を委託していきます。
また、森林の集約化をサポートしてくれる助っ人が「林地集約化推進員」です。現在、1つの小学校区で6人の地元の方に委嘱しており、集約エリアを選定する際の情報提供や地元関係者への意向調査の実施、管理契約締結の立ち会いなどで協力を得ています。地元の細かな情報を得ることができるうえ、行政職員だけの訪問より、顔見知りの推進員が随行することでとてもスムーズに話を進めることができるので助かっています。
これまでに、町が管理契約を締結した民有林は、1,636筆、合計607haとなっています。
ただ、集約化の取組は容易ではありません。適切に制度を運用するためにも、林業関係者および森林所有者の皆様のご理解ご協力、そして人員体制の充実が必要だと強く思います。
4.佐川町のこれから
当町では森林や林業の教育についても取り組みを始めています。2018年3月に木育を普及・推進させていくため「ウッドスタート宣言」を行い、誕生祝い品として、生まれた赤ちゃんに町産材の檜でつくった積み木をプレゼントしています。幼いときから温かみのある木に触れ合うことで、感性豊かに育ってほしいと願いを込めております。また、2年後には「植物が中心にあるまち佐川町」を具現化した道の駅をオープンさせる予定で、故郷の偉人で世界的な植物博士である「牧野富太郎博士」に想いをはせ、道の駅の名前を「まきのさんの道の駅・佐川」と決定しました。木のおもちゃで遊べる「おもちゃ美術館」を併設した道の駅として計画を進めており、林業から木育、ものづくり、家づくりまで体感できる、佐川町らしい道の駅にしたいと考えています。
最後になりますが、これからも自伐型林業の可能性を模索しながら、行政として佐川町版の森林管理システムを着実に進めていくことで、地域の活性化を図り、「世界一幸せな町づくり」を目指していきます。