何がテキサス州を停電させたのか

―風力発電か市場の失敗か―


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 先週(2月14日の週)初めから、日本のメディアでも米国を襲った寒波が引き起こしたテキサス州の大規模停電が報じられている。一時400万以上の契約者が影響を受けていたが、2月21日(日)午前の時点では、1252万契約数のうち停電しているのは3万1600に減少しており、大きな停電の危機は脱したようだ。停電の原因については、テキサス州が全米一の導入量を持つ風力発電設備が寒波で凍り付き発電量が落ちたためとウォールストリートジャーナルなどが報道し、日本でも同紙の記事を引用するニュース報道もあった。
 だが、2月17日最大4600万kWの電源が脱落した時点では、そのうち2800万kWは天然ガスを主体とした火力発電設備と報道されており、再エネ設備が天候に対し脆弱なのは間違いないとしても、風力発電の脱落は停電の原因の一部に過ぎないようだ(注:電力の系統運用を行っているテキサス電気信頼性評議会₋ERCOTのホームページは、停電発生時から安全上の理由として閲覧ができない状態になっており、この原稿はERCOT幹部が報道機関に述べたデータなどに基づいている)。
 停電の原因は寒波により電力需要が急増したにもかかわらず、燃料供給、発電設備が影響を受け電力供給力が大きく落ち込んだことだが、送電網が他州とはあまり連携せず(図-1)、メキシコ、隣接州と細々と電力のやりとりをするだけのテキサス州の事情もある。この連携状況のため、2011年の寒波来襲時にも輪番停電を経験している。また、2019年夏の電力需要急増時には卸電力価格が1kWh当たり9ドルの上限価格に張り付いたこともある。

 11年の停電時、19年の卸価格高騰時ともに議論になったのは、容量市場を導入せず、卸市場に全てを委ねるテキサス州独自の電力市場だった。今回の停電も根本原因は容量市場を導入せず余剰設備を持たない制度にあるのかもしれない。

寒波に襲われる米国

 最近北極の極渦と呼ばれる超低気圧が米国に降りてくる事態が発生し、米国が大寒波に見舞われるようになってきた。この10年でも2011年、14年、17年末から18年1月とほぼ3年おきに大寒波、冬の嵐に襲われている。カリフォルニア大学の研究者は、大寒波の原因は地球温暖化により北極上空に暖気が流れ込み極渦が押し出されることにあるとの仮説を発表している。今年の北極上空の気温も平年との比較では図-2の通り、かなり高く推移している。

 2011年の寒波ではテキサス州は輪番停電を経験したが、14年の寒波では米国北東部の一部石炭火力では石炭が凍り付き給炭できない事態、天然ガス火力では需要急増により天然ガス供給不足が発生し、火力発電所の供給量が大きく減少した。この状況を救ったのは、全米で1基の停止もなかった原子力発電だったと報告されている。18年の寒波では、北東部でも増加していた風力、太陽光発電からの供給量が大きく落ち込んだが、発電量が減少していた石炭火力、石油火力設備を稼働させることにより停電を免れた。いずれも電源の多様化と、供給力に余裕を持たせることが必要と教えることになった。
 寒波の米国で停電が発生すると死者がでる可能性がある。米国では天然ガスあるいは電気でセントラルヒーティングを行っている家庭が多い。電気で暖房を行っている家庭は停電下では暖房手段がなくなる。大工センターで石油ストーブが手に入るわけではなく、日本の卓上で使用可能なカセット型ボンベを利用する調理器、あるいはキャンプ用の小型ストーブ程度しか売られていない。今回のテキサス州の停電ではカセットボンベも売り切れたと報道されている。

テキサス州の特殊な事情

 テキサス州と言えば、石油、ガスの採掘を思い出すが、全米一の風力発電設備導入州だ。
 2020年11月末の時点で、全米の電力事業用風力設備1億1100万kWのうち、2920万kWが導入されている()。2020年1月から11月までのテキサス州電力部門の発電量は、3980億kWh、全米の発電量3兆5200億kWhの10%以上を占める米国最大の電力需要州だ。テキサス州の発電量の49%は天然ガス、23%が風力と太陽光発電だが、太陽光発電設備量は430万kWなので、23%の大半は風力発電によるものだろう。

 テキサス州は電力を自由化しているが、容量市場を導入しておらず設備導入も市場に任せている(図-3)。2014年の寒波来襲時には卸価格は1kWh当たり5ドルに達した。2019年8月には冷房需要により電力供給が厳しくなり、卸価格が2018年平均1kWh当たり3.6セントに対し6.54ドルに上昇し、翌日には設定されていた上限価格9ドルに達した。

 この事態を受け、容量市場を導入し予備力を確保すべきとの議論もあったが、ピーク時に卸市場価格が上昇すれば、収入が保証されるので発電事業者はピーク対応の天然ガス火力を建設するだろうとの見通しと、容量市場を導入すれば電気料金の上昇を招く、将来は需要サイドの抑制策の導入により対応可能。停電は発生していないとの主張が通ったようで、容量市場の導入は行われなかった。

何が問題だったのか

 停電の原因は、風力の出力低下にあるとの報道はなぜ広まったのだろう。寒波来襲前に風力発電の羽の凍結が予想されるとの報道があったこと。さらに、共和党議員のSNSによる発信が影響しているようだ。バイデンの再エネ政策を導入すれば停電するとの共和党の主張だ。昨年夏のカリフォルニア州の停電は再エネが引き起こしたが、今回の停電は全発電設備が影響を受けたので、風力だけの問題ではなかった。
 寒波来襲前に、天然ガス供給が逼迫することが予想されたためテキサス州のパイプラインを管理している鉄道委員会は、家庭、病院、学校、教会、主に住宅に電力供給を行う発電所に優先的に天然ガス供給を行う方針を立て、産業部門、商業部門への電力供給を行う発電所への供給は後回しにされたと報じられている。
 さらに、通常電力需要が落ちる時期なので休止あるいは補修を行っていた発電所も多くあり、急な立ち上げができなかったうえ、立ち上げた後もガス供給、運転に問題があったようだ。テキサス州以外の州では小規模な停電はあったものの、テキサス州程の大規模停電は発生しなかった。テキサス州では発電所で予備の燃料の準備もなく、風力発電の凍結防止設備も設置されておらず、タービンが屋内に設置されていない設備もあるなどERCOTの準備不足も伝えられている。
 2月17日地元のテレビニュースに出演したアボット・テキサス州知事(共和党)は、「ERCOTは情報開示を行っておらず透明性に欠ける、事前に寒波来襲が分かっていたのに予備力を確保していなかった、全発電設備で問題があり、天然ガス供給がないため停電が発生した。ERCOT理事長は辞任すべきだ」と憤りを隠せなかったが、その後フォックスニュースでは、「風力と太陽光が停電を引き起こした。グリーンニューディールは米国にとってとんでもない政策だ。化石燃料が重要だ」と発言内容を変えた。
 今回の停電が明らかにしたことは、再エネの天候に対する脆弱性に加え容量市場の必要性だったのではないだろうか。テキサス州はこれからも容量市場を用意しないのだろうか。