米国での温暖化プロパガンダ
書評: マークR・レヴィン 著/道本美穂 訳/古森義久 解説 『失われた報道の自由』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(電気新聞からの転載:2020年12月11日付)
バイデンの圧勝だと米国大手メディアは予想していたが、大苦戦で勝ったのかどうかもよく分からなくなった。はっきりしたのは、メディアはまたも間違えた、ということだ。4年前にもメディアは一貫してトランプ氏を攻撃し続け、大統領選ではトランプの敗戦を予言していたが、見事に外れてしまった。ニューヨーク・タイムズCNNは民主党寄りのプロパガンダを繰り返している。
この本は、米国メディアの偏向は今に始まったことではないこと、近年になってますますひどくなっていることを、豊富な証拠で説得的に論じる。ぞっとするエピソードとしては、ナチス・ドイツがユダヤ人をホロコーストで絶滅させようとしていたときに、その情報を入手していたにも関わらず、ニューヨーク・タイムズをはじめ大手メディアは国内でほとんど報道しなかったことだ。実は当時の知識人は反ユダヤ主義が多かったからである。あるいは積極的な反ユダヤ主義ではなくとも、ユダヤ人の運命には関心がなかった。リベラルを自称するメディアでありながら、伝えるべきことを伝えなかったという歴史的汚点である。
地球温暖化も、民主党系メディアによるプロパガンダの対象となっている。「温暖化の科学は決着しており、規制や税で二酸化炭素を削減すべきで、大きな政府と国連への権力移譲が必要だ」という言説である。実際には温暖化の科学は不確かなことだらけであり、観測データは深刻な気候の異変など示していない。猛暑も豪雨も台風も地球温暖化のせいではない。だがかかる正論は温暖化否定論者というレッテルを貼られてメディアから排除される。この否定論者(デナイアー)という単語は、ホロコースト否定論者を想起させるため、英語圏では極悪人の響きがある。だが実はホロコースト否定論に近いことをメディアが実はやっていたと言うのは皮肉である。
日本の知識人の多くは米国のリベラル系メディアの言うことをうのみにする。特に地球温暖化については明らかにそうだ。米国はまだウォールストリートジャーナルやフォックスニュースなどがあって地球温暖化問題についてもオープンな議論を続けている。翻って日本では大新聞とテレビはみな温暖化プロパガンダに丸め込まれてしまっている。プロパガンダを垂れ流すのは、もう止めた方がよい。そうしないと国民もそっぽを向く。ネット上ではオープンな議論がなされているのだから。
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『失われた報道の自由』
マークR・レヴィン 著/道本美穂 訳/古森義久 解説(出版社:日経BP)
ISBN-13: 978-4822289010