災害の多重、激甚化に備え展望
書評:齊藤 誠・野田 博 編『非常時対応の社会科学 -- 法学と経済学の共同の試み』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2020年9月11日付)
「非常時対応の社会科学」とは、なんとも壮大なテーマだ。本書は、日本学術振興会の「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」において、設定された「非常時における適切な対応を可能とする社会システムの在り方に関する社会科学的研究」に関して、2013年度から2年間かけて取り組まれた成果をまとめたものである。
副題にある通り、経済学、法学それぞれの分野の専門家による研究プロジェクトチームが組織され、定期的な合同研究会や意見交換会での議論を経て成果としてまとめられたものである。経済学チームは、「原発危機の経済学」(日本評論社)などの著書のある齊藤誠先生が率いられた。私も、原子力損害賠償制度の議論について、故・澤昭裕先生とともに参加させていただき、経済学と法学の視点を交わらせることで、議論が飛躍的に深まることを実感することができた。
本書が取り上げるテーマは幅が広い上に、実際的である。
自然災害からの復興を取り上げた部では、震災緩和と防災法制、縮小都市の復興におけるモラトリアムのあり方。福島原子力事故を事例とする部では、汚染水問題への対応、原子力発電所事故から学ぶ金融危機への対処方法。事後的なリスク対応として金融危機と財政危機を取り上げた部では、原子力損害賠償に関わる数々の論考。そして、コロナでも関心が高まった危機対応と財政制約の部では、首都直下地震と財政問題、財政危機と国際金利――といった、1冊の本となり得る重さと深さのあるテーマが、各章のタイトルとして並んでいる。
「天災は忘れた頃にやってくる」と言われたのは今は昔。自然災害の頻発や激甚化、コロナウイルス感染症拡大も含めて考えれば、天災が重なり合ってやってくることも覚悟せねばならない。これまで経験した数々の「非常時」で、日本社会はしなやかな回復力を身に着けてきたのだろうか。停滞した20年により陰りが見えるとはいえ、世界第3位の経済力に任せて、非常時の対応力を上げる努力を怠っていたのではないだろうか。
あと半年で、東日本大震災と福島原子力発電所事故から10年を迎える。その節目を前にして、本書を再び手に取り、あらためて一人でも多くの方にこの本に目を通していただきたい、と願う次第である。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『非常時対応の社会科学 — 法学と経済学の共同の試み』
齊藤 誠・野田 博 編(出版社:有斐閣)
ISBN-13:978-4641164710