航空機利用、利便性捨てるのか
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「エネルギーレビュー」からの転載:2020年5月号)
温暖化問題に関心を持つ人に大きな影響力を持つスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんは、航空機を利用せず欧州内を常に列車で移動している。大西洋横断さえヨットを利用している。一人当たりのCO2排出量が多い航空機利用については温暖化問題に熱心に取り組む人たちからの非難の声は大きくなるばかりだ。
国土交通省の資料によると、2017年度の日本のCO2排出量に占める国内交通部門の割合は17.9%、2億1300万t。そのうち航空部門は1040万t、鉄道部門が867万tを占めている。ただ、旅客1人・1km当たりのCO2排出量は航空機96g、鉄道17gであり、航空機は鉄道の5倍以上だ。自家用車の排出量は137g。航空機より大きいが、自動車は電動化、燃料電池などによりCO2排出量を抑制することが可能だ。欧州などでは電気自動車などへの補助制度が整備され、導入台数も急増している。日本を含む東アジアでは、燃料電池車導入目標が立てられている。
しかし、航空機については電動化も水素利用も自動車ほど簡単ではない。CO2排出量削減のための方法としては燃費のよいエンジン導入、あるいはバイオ燃料の利用だが、どちらも今の段階ではCO2を大きく削減することには繋がらない。一方、欧州の鉄道部門では、電化が進むことに加え電源の排出係数も低下が続きCO2排出量は減少している。電化が遅れているディーゼル区間では、重量のある蓄電池を積載する電気列車の運行は難しいが、ドイツでは燃料電池列車が導入され、オランダ、フランス、英国などでも導入の動きが進んでいる。船舶部門でもノルウェーで電気フェリーが導入され、さらに燃料電池フェリーの建造も進んでおり、来年就航予定だ。
運輸部門での航空機のCO2排出量の高止まりが目立つことになりそうだが、経済的な手法で航空部門のCO2排出量を削減する試みも実行されている。欧州ではEU排出量取引制度の下でEU内発着の航空機も対象となっている。単位排出量が相対的に多い航空会社は排出枠を購入することが必要になり、金銭的な負担を強いられる。また、国内排出量計算の対象外だが、全世界排出量の1.3%を占める国際航空部門からの排出量についても、来年から排出量取引の試行が開始される予定だ。
さらに、航空機利用者の削減を図るためフランス政府は今年から航空機利用に課税することを始めた。利用者は、目的地とクラスにより異なるが一航空券に対し1.5ユーロから18ユーロを支払うことを要求される。オランダ政府は、もしEUレベルでの航空機利用に対する税が導入されなければ、来年から航空券当たり7ユーロの課税制度を導入する計画だが、新型コロナウイルスの影響を受けているエールフランス─KLM首脳からは、導入延期要請が出されている。
航空業界に対する風当たりは強くなるばかりだが、さらに鉄道利用を増やすべく来年を「欧州鉄道年」にする提案が欧州委員会からなされた。昨年12月に提案された欧州グリーンディールの目的、2050年純排出量ゼロを目指すためには、運輸部門からの排出量を削減することが必要だ。旅客の航空機利用、貨物のトラック輸送を鉄道に切り替えることを促す意図だ。
航空機利用を削減する試みがEUでは目立つが、私たちは航空機がもたらす便益、メリットも考える必要がある。何度も鉄道を乗り換えしなければならない、あるいは船舶で何日もかかる場所には航空機利用は大きなメリットをもたらす。欧州委員会、主要国は温暖化対策のためとして航空機利用者に負担増を迫っているが、正しい方法だろうか。鉄道利用が便利な場所に航空機を使う必要はないだろうが、トゥーンべリさんのようにどんな時にも航空機を利用しないのは、持続可能な方法ではないだろう。