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検証・英国広域停電

~再エネ大量導入による慣性力低下の影響は?~


国際環境経済研究所主席研究員


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4.事故原因の分析レポート

 事故の説明の中で、ホーンシー風力発電所およびリトルバーフォード火力発電所の出力停止の要因について、各社がナショナル・グリッドに提出した報告書の内容は、次のようになっている。

 (1)ホーンシー(Hornsea)1風力発電所・オルステッド(Orsted)社

ホーンシーウインドファームは、2019年2月に発電を開始し、最終的には1A、1B、および1Cの各400MWの3ファーム、合計1.2GWの設備容量となる洋上風力発電所である。事故直前は、799MWが稼働していた。
洋上変電所で34kVから220kVに昇圧し、陸上の変電所まで、およそ170~190kmのHVAC(交流)海底ケーブルで送電される。この海底ケーブルで発生する無効電力は、洋上の無効電力補償変電所の分路リアクトル(shunt reactors)を通じて補償される。陸上変電所で220kVから400kVに昇圧され、ナショナルグリッドの変電所に接続している。そして、電圧変動抑制の手段として、無効電力補償装置を設置し、系統接続の要件として、無効電力の供給責任を負っている。
出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted

(出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted)

ホーンシーは、落雷による送電線の地絡事故発生(16時52分33秒490ミリ秒)から事故区間の開放注12)(70ミリ秒後および74ミリ秒後)に至る系統の電圧変動について、検知していた。
事故発生を受け、ホーンシーは系統の電圧を上昇させるべく、速やかに無効電力を供給した。しかしその直後(70~74ミリ秒後)、地絡の事故区間が開放され、系統の電圧が即座に回復したことから、ホーンシー洋上・陸上変電所ともに、有効電力・無効電力が大きく変動した。
オルステッド社の報告書によれば、何らかの有意な振動(oscillation)があり、無効電力の供給が吸収に転じ、その後再び供給を開始した。僅か390ミリ秒の間に無効電力の供給・吸収を繰り返したことから、ウインドファームの電圧が34kVから20kVに低下し、ホーンシー1Bおよび1Cの全てのタービンが、発電機の過電流保護(overcurrent protection)装置により、出力を停止した。
報告書によれば、オルステッド社は、事故の原因を次のように述べている。
“The de-load was caused by an unexpected wind farm control system response, due to an insufficiently damped electrical resonance in the sub-synchronous frequency range, which was triggered by the event.”
上記における“Sub-synchronous Resonance(低周波共振)”に関して、これ以上の踏み込んだ説明は付されていないので、詳細は不明であるが、低周波での(何らかの)電気的な共振を十分に減衰(徐々に減少)させることができず、ホーンシー1の制御システムが想定外の反応を示し、出力停止に至ったとのことである注13)
出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted

(出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted)

実は、当該事故発生の約10分前にも振動が発生していたが、その際は、出力停止に至っていなかった。オルステッド社の知見によれば、かかる振動から出力停止に至ったのは、今回が初めてのケースとのことである。オルステッド社は、かかる系統の擾乱に対するシステム反応に関して、安定化を図るべく、ソフトウェアの更新を行った。同社は、今後も、将来の技術要件やグリッドコードに沿って、ソフトウェアの更新を行い、こうしたリスクを抑えていく方針としている。
出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted

(出典:Hornsea Technical Report Submitted by Orsted)

 (2)リトルバーフォード(Little Barford)火力発電所・RWE社

報告書によれば、蒸気タービンは、送電線の地絡事故による速度信号の不一致の影響で、トリップした。この「速度信号の不一致(a discrepancy in the speed signals)」について、これ以上の説明はなされておらず、詳細は不明である。RWE社は、ESOより詳細周波数データなど入手をし、更なる調査を継続実施中としている。
蒸気タービンがトリップすると、運転を維持するために、ガスタービンはバイパスモードの運転になる。何らかの理由により、蒸気圧が高圧の異常値となり、ガスタービン1Aは自動停止に至った。
ガスタービン1Bは、蒸気圧の高圧異常により、手動で停止した。
バイパスシステムの高圧異常についても、詳細不明であり、RWE社は、今後、現場調査を予定している。

5.慣性力低下の影響は

 一般に、風力や太陽光発電などで、インバータを介して系統に連系する電源の割合が増加すると、相対的に、従来の火力、水力などの同期発電機が減少する。その結果、同期化力が働きにくくなり、系統における慣性力(回転タービンの運動エネルギーから生じる、周波数変動に抵抗する力)は低下し、小さな需給変動でも、周波数はより変動しやすく(よりvolatileに)なり、系統安定度が低下する。従って、風力発電のウエイトが高い状況下で停電が発生すると、電源のトリップの影響が増幅される。
 但し、今回のケースは、風力の変動性それ自体が、事故の一義的な(直接的な)原因ではないと報告されている。(また、ナショナルグリッドは、慣性力を実測しておらず、モデル上で計算するのみである。)しかし、同時に、ナショナルグリッドは、この10年間で同期化力を持たない再エネ電源や連系線からの接続が増加し、電源構成(エネルギーミックス)が大きく変化した中、ゼロエミッションに向けたエネルギー転換の実現と、系統のセキュリティ確保・レジリエンスとのバランスを確実にするためには、発電事業者およびESO双方の、更なる調査・分析が必要であるとも述べている。電力の安定供給を旧一般電気事業者が一義的に担う垂直統合体制とは異なり、システム運用者のみならず、全ての市場参加者が、供給責任の一部を担うものとして、調査への協力が求められる。
 系統の慣性力の低下に対しては、バッテリーやDSR(デマンド・サイド・レスポンス)など柔軟性を持つ容量(Flexible capacity)により、いわば「疑似慣性(Synthetic inertia)」、即ち超高速の周波数応答(Fast Response)を供給することでも対応が可能であり、英国では、市場により調達を行っている注14)。今後は、こうした「疑似慣性」の十分な確保と、調達にかかる費用増加の抑制との両立が重要な課題となるであろう。
 E3Cの最終レポートは、本稿執筆時点で、未だ公表されていない。引き続き、調査の動向を注視したい。

注12)
系統全体の保護のため、事故点の遮断器を開放して影響区間を切り離すこと
注13)
なお、IEEEの定義等によれば、低周波共振(Sub-synchronous Resonance)とは、直列にコンデンサが挿入された送電系統において、系統の電気的振動と発電機タービンの機械的振動が共振を起こす現象をいう。場合によっては、発電機のロータ軸がねじれ、破損に至ることがある。しかし、ホーンシーは、かかる低周波共振のリスクを低減すると言われる自励式静止型無効電力補償装置(STATCOM: STATic synchronous COMpensator)を導入していることから、今回の事象は、上記定義にあてはまらないのではないかと推察する。
注14)
なお、慣性力を活用し、周波数の早期回復に貢献できる風車も出てきているが、現状では十分な貢献に至っていない。

(参考資料)
National Grid ESO, “Technical Report on the events of 9 August 2019”, 6th Sep 2019
https://www.nationalgrideso.com/document/152346/download

National Grid ESO, “Appendices to the Technical Report on the events of 9 August 2019”, 6th Sep 2019
https://www.nationalgrideso.com/document/152351/download

National Grid ESO, “Interim Report into the Low Frequency Demand Disconnection (LFDD) following Generator Trips and Frequency Excursion on 9 Aug 2019”, 16th Aug 2019
https://www.nationalgrideso.com/document/151081/download

Energy Emergencies Executive Committee: interim report, “GB Power System Disruption – 9 August 2019”, Sep 2019
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/836626/20191003_E3C_Interim_Report_into_GB_Power_Disruption.pdf

National Grid ESO, “System Operability Framework”
https://www.nationalgrideso.com/publications/system-operability-framework-sof

Orsted
https://orsted.com/