火力運用を難しくする異常気象
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」からの転載:2019年8月13日付)
今年6月、欧州では異常気象が続いた。フランスではセーヌ川を挟みエッフェル塔の正面に位置するトロカデロ広場の噴水池で水浴びをする人が現れ、6月28日にはフランスの最高気温が45.9℃になり、記録を更新した。チェコ、スペイン、スイスでも6月の最高気温が更新され、特にスイスでは40カ所において最高気温が更新された。
オックスフォード大学、プリンストン大学などの研究機関は連携し、気候変動問題の影響を解析する国際的な組織WWAを結成している。同組織の速報的な分析によると、100年前との比較では現在熱波の気温は4℃上昇している。また、頻度は10倍になっているとのことだ。この原因は都市化などの影響もあるが、人為的な行為による可能性が高い。
欧州を襲った熱波は電力供給にも大きな影響を与えている。ドイツの6月の再エネ発電量のシェアは51.6%に達し、前年同期の41.8%から大きく伸びている。異常気象による好天により大きく伸びた太陽光発電量がこのシェア増に貢献している。
1918年6月との比較で19年6月の太陽光発電設備量は8.5%増え、月間発電量は59.3億kW時が71.8 億kW時に21 % 増加している。太陽光の最大電力供給は2620万kW から3350万kW に28% も増加している。好天がもたらした結果だろう。
この影響を受けたのは、火力発電設備だ。6月の火力の合計発電量は133億kW時。前年同期184億kW時から28%の落ち込みだ。再エネの発電量が増えるのは喜ばしいが、火力発電の稼働率が落ち込むことにより、電力システム維持を難しくさせる問題が生じる。
例えば、18年6月に最大電力1420万kWであった石炭火力の6月の最大電力は750万kWに落ち込み、稼働が最も落ち込んだ時の供給量は80万kWを下回るほどだった。供給量も44億kW時から26憶kW時に落ち込んでいる。この状態が続けば火力発電設備はコスト割れとなり維持が難しくなる。異常気象は生活、健康だけでなく、電力システムにも大きな影響を与えている。