第2回 電線・ケーブルのサイズアップでコストダウンとCO2削減を訴求する[後編]
日本電線工業会・技術部長 五来高志氏、同工業会・技術部部長補佐 浜田光真氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
前編では、電線工業のグローバル・バリューチェーン(GVC)のポイントは、電線・ケーブルの導体最適サイズ設計「ECSO設計」であり、配電はECSO設計が適用しやすく、業界として適用拡大を目指していることを伺った。前編はこちらをご覧ください。
―――電線・ケーブルの最適導体サイズは太い電線を使用する場合の投資効果などについて、もう少しお聞かせください。
五来氏:例えば30アンペア、40アンペアの電流を流す場合、導体サイズは通常ですと最小の8mm2とか14mm2といった小さいサイズを選びますが、これをECSO設計によって大きいサイズに換えることにより、省エネ、CO2削減、電力ピークカットの3つの効果を得ることができます。初期投資額が何年で回収できるかも計算できます。3年か4年間で、初期投資が増加した分は回収できると思われます。(表1)
―――これくらいの年数で初期投資の回収ができるとは驚きました。
五来氏:投資回収以降はメリットが出てくる計算です。このぐらいの年数で回収できるわけですから、これはやらない手はありません。ECSO設計をするだけで、CO2削減に寄与できます。
―――電線・ケーブルの導体最適サイズの設計を、広く社会に普及させるための規格化や施策、法整備の取組みについてお聞かせください。
五来氏: IEC(国際電気標準会議)のTC20(電力ケーブル)における「電力ケーブルの環境考慮」の規格があるのですが、ECSO設計の考え方を盛り込んでもらおうと動いています。現時点では、委員会でドラフトが承認されたところまでいっています。最終のFDIS(最終国際規格案)がもう近々発行される段階に来ていまして、最終的な審議を経て承認されればIS(国際規格)が年内に発行される見通しです。
―――ECSO設計が国際規格化される予定なのですね。
五来氏:この活動が始まり、かなりの年数が経ちますが、ようやく国際規格化実現というところまで来ました。
―――国際規格化されると、日本の電線工業にとってもプラスになりますか。
五来氏:ECSO設計の考え方や計算方法を国際規格に入れてもらうことになると、ECSO設計の考え方が普及しやすくなると思います。国内に「内線規程」という電機産業界のバイブルでもあるマニュアルがありますが、2016年9月に発行された内線規程にECSOを織り込んでいただいています。
―――国際規格化されると、ECSO設計の考え方が広がりそうですね。
五来氏:そうです。この最適導体サイズを選定するソフトウェアをリリースしたのが2015年、ウェブサイトでの更新が2015年、内線規程に考えを取り込んでもらったのが2016年ですが、次のステップとして国内の公共工事に関係する規格「公共建築工事関連規格」にECSOを織り込んでもらえないか検討しています。公共工事に使用される機材、工法についての仕様を取りまとめたものですので、これに採用されれば普及効果は大きくなります。
―――独自に開発されたソフトウェアについてお聞かせください。
五来氏:我々が開発した「環境配慮導体サイズ選定の効果試算」や「メガソーラ発電所構内配線ECSO設計プログラム」のソフトウェアは、日本電線工業会HPで公開しています。必要項目に記入していただけるとあっという間に計算できますので、活用して頂きたいと思います。(図1)
―――誰でもこのソフトウェアは利用できるのですか。
五来氏:はい、公開していますので、どなたでも利用できます。通常のサイズ、現行でしたら38mm2が最小サイズですが、ECSO設計をすると100mm2になります。省エネへの効果、CO2の削減効果も計算してくれます。また、何年ぐらいで初期投資が回収できるか、電気代はどれくらい低減できるかも計算できます。
―――メガソーラ発電所構内配線のソフトウェアはユニークですね。
浜田氏:太陽光発電事業者は、最終的には電力会社に電力を売ることによって収入を得られているわけですが、太陽光発電の電力が電力会社に行くまでの経路、そこの電線を太くしてやれば、その間にロスする電力が少なくなります。
太陽光発電の設備で例えば100つくった電力は、各電気機器に配電するケーブルで4%の電力損失が発生し96になっていたのが、ECSOの電線太径化の考え方を導入すると、98になり、2ポイント多く売電できるようになります。その分太陽光発電の事業者にとって収入が増えるわけです。ECSO設計により、何年かすると電線のイニシャルコスト増を上回る節電効果と売電収入がアップできます。
―――積極的にECSO設計プログラムを活用している太陽光発電事業者はいますか。
浜田氏:例えば、太陽光発電事業を展開するGPSSホールディングスは、このECSOの考え方を早々に導入されて、全国展開されています。電線の銅導体の太径化することで、電気抵抗を減らし、電気ロスを抑え、省エネを実現しています。“最適な導体サイズアップ基準=より良い太径化“により、北海道から九州までの同社が扱うすべての発電所に採用しています。その結果、約2%の電気ロス改善に成功しています。太径化によるコスト増加は、電気ロス削減による売電収入増加により10年弱で回収可能という結論に至っています。
五来氏:通常、発電事業者は、イニシャルコストが安く済む細い電線、ぎりぎりのサイズを選ぶ場合が多いです。
浜田氏:しかし、最適な導体サイズアップ基準の電線を使っていただいたほうが経済的にもメリットがあります。電線の太径化によるイニシャルコストの増加分が10年で回収できれば、FIT(固定価格買取制度)の20年間の売電期間の残りの10年は売電収入が増加することになります。
―――電線の太径化は、省エネおよびCO2削減、そして経済性が成立できるのですね。
五来氏:昨年5月、ECSOの関連で一般社団法人・日本銅センターの「日本銅センター賞」を受賞しました。(日本銅センター賞http://www.jcda.or.jp/center/tabid/81/Default.aspx)ECSO設計の考え方やソフトウェア開発、メガソーラでも実績を積めたことを評価して頂きました。今後も電線・ケーブルの導体最適サイズ設計により、社会全体の温暖化対策に貢献していきたいと思います。
【インタビュー後記】
電線やケーブルは、私たちの生活や産業、社会インフラを支える重要な資材で、人間の体に例えると血管や神経に相当します。今回お話を伺い、電線の導体最適サイズの設計「ECSO設計」の効果には大変驚きました。電線の太径化(最適導体サイズ設計)により、省エネ、CO2削減、電力のピークカット対策ができ、ライフサイクルで見ると経済性も成立します。ECSO設計プログラムを取り入れた太陽光発電所が、電気ロスを抑えて省エネを実現し、売電収入を増やしていることも注目すべきでしょう。
グローバル・バリューチェーン(GVC)の観点から、製造段階からエネルギー使用量やCO2排出を基準年と比して減らしており、使用段階ではECSO設計を取り入れるだけで、消費者側はCO2を減らすことができます。電線の導体のサイズの最適化は、電力損失を減らすことができ、節電や温暖化対策等の「環境」と「経済」を両立させる大きな効果があることを企業や工場経営者の方たちに知って頂きたいです。