SDGsの観点から原子力発電を再検討する
谷 和樹
玉川大学教職大学院 教授、TOSS 代表代行
1 SDGs
2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。その中に記載された2030年までの国際目標がSDGs(持続可能な開発目標)である。持続可能な世界を実現するための17のゴールと下位レベルの169のターゲットから構成されている。地球上の誰一人として取り残さない(leave No one Behind)ことを謳いながら、世界中で取り組みが始まっている。(図1)
現在の学習指導要領にはSDGsは記載されていないため、教科書でも取り扱われていない。このため、学校現場ではほとんど触れられていないのが実情だ。しかし、これからを生きる子どもたちにとってSDGsは重要な考え方である。
エネルギー問題など、これまでは単独で授業を行うにはハードルが高かったようなテーマについても、SDGs教育の一環として取り扱うことができるようになると考えている。
2 みんなにクリーンなエネルギー
SDGsの目標のひとつが「みんなにクリーンなエネルギー」である。「みんなに」が世界中の人々を指すことを考えれば、「できるだけCO2等を排出しない」エネルギーが望ましい。原子力発電は火力発電に比べて、CO2の排出量という点では、かなりクリーンなエネルギーである。(図2)このことは当然SDGsの「気候変動に具体的な対策を」の目標にも寄与する。
3 健康福祉を阻害する可能性
クリーンであり、気候変動対策としても良い。しかし、原子力発電は危険だというイメージが、やはり強い。いったんチェルノブイリや福島のようなことが起きれば、多くの人々の健康や福祉を危険に晒してしまう。そのことは、確かに論議されなければならないだろう。ただし、あくまで数値的に、冷静にみるのなら、次のようなデータもある。発電量(TWh)あたりの死者数である。(図3)
火力発電、とりわけ石炭火力は大気汚染によって多くの人を死なせているようだ。それに対して原子力発電による死者はTWhあたり0.04人であり、圧倒的に少ない。この数値は福島の事故を入れても変化しないのだという。
データは他にもある。以下、参考までにいくつかを挙げておく。
4 陸の豊かさを守ろう
「陸の豊かさを守ろう」という目標でも、原子力発電は有利にならざるを得ない。1年分の発電量で比較すると、原子力発電所では約0.6km2だが、太陽光発電で同じ電力をつくるためには約58km2(山手線一杯)が必要である。風力発電はさらにその3.4倍の約214km2になる。(図8)
5 働きがい、経済成長
経済成長という観点では、発電コストが安いほうが有利である。原子力発電は、事故リスク対策費を含めても1kWhあたり約10円であり、他の発電方法に比べて安い。(図9)使う燃料も比較的少なくてすむ。(図10)
6 つくる責任、つかう責任
こうしてSDGsのいくつかの目標に照らして検討すると、原子力発電はデータ上、かなり有利な発電方法であると言わざるをえない。ただし、高レベル放射性廃棄物等の問題はまだ解決されていない。SDGsの「つくる責任、つかう責任」の目標で言えば、まだ問題は先送りされたままだ。この点では原子力発電にはまだまだ課題も多いといえる。
「原子力ビジネスユニットとSDGsのかかわり」について、日立グループ執行役常務の武原秀俊氏は次のように述べている。
「福島の事故以降、原子力への視線が厳しくなっていますが、感情論に流されず、エネルギーのベストミックスのために、原子力の重要性が認知されるように努めていきたいと思います。」
(http://www.hitachi.co.jp/sustainability/sdgs/nuclear_bu/index.html)
私は全国の先生方と授業の研究・研修を進める民間の教育研究団体TOSSに所属している。子ども達といっしょに未来を考える教師だからこそ、印象や風評、感情論だけでなく、データに基づいて論理的に考えるよう、さらに勉強を続けていきたい。