了承される主張、提案のヒント

書評:島田 久仁彦 著『交渉プロフェッショナル  国際調停の修羅場から 』


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2018年11月2日付)

 冬が近づくと「今年のCOPもそろそろだ」と思う。毎年参加している国連気候変動枠組み条約交渉のことだ。

 島田氏とは、10年以上前にCOP会議の場で出会った。「環境省地球環境局国際調整官」という固い肩書にもかかわらず、金色に染まった髪と気さくな笑顔が印象的で、「英語、仏語と河内弁のネイティブ」と言う通り、堪能な語学力で、会議の参加者全員が彼の友達であるかのように見えた。

 本書は、その島田氏の「交渉術」を伝えている。国連紛争調停官として、環境省国際調整官として長年気候変動条約交渉に関わり、名古屋で開催された生物多様性条約会議では先日亡くなった松本龍環境相(当時)を補佐、「名古屋議定書」採択を成功裏に導いた。これらの豊富な経験談は、単純に読み物としても面白いだけでなく、交渉とは、相手に敬意を持つところから始まることを教えてくれる。それは日々のコミュニケーションや仕事術にも役立つ。

 COP24を約1カ月後に控えたこのタイミングで本書を紹介したのは、交渉に関わる方にぜひ手に取っていただきたいからだ。交渉の経緯や裏話だけではなく、日本の主張や提案を受け入れてもらうためのヒントが詰まっている。

 日本政府関係者は、端で見ていても気の毒なほど必死に交渉に臨んでいる。地球益を考えつつ国益も最大限追及することをミッションとして負っているため仕方ないとはいえ、徹夜に近い状態が続くことも珍しくない。

 しかし本書はあえて、各国の交渉官と飲みに行くこと、あるテーマについて提案を求められたときに完璧なペーパーを出すのではなく「隙を見せる」テクニックも使うことを勧める。政府交渉団の全員が彼のように行動することは適切ではないだろうが、役割分担の中でこうした存在を持つことは、政府としての交渉力底上げにつながる可能性もあるだろう。

 気候変動問題に関心のある一般の方にもぜひ読んでいただきたい。交渉を取材するメディアはしばしば「日本が蚊帳の外に置かれている」と報じるが、決してそんな単純な構造ではないことがよくわかる。パリ協定が発効したとはいえ、詳細設計では各国の主張が激しく対立している。「主張すべきは主張する」ことの重要性も説く本書を、COPに赴く前に、あるいはCOPに関するメディアの報道に触れる前に、ぜひ手に取っていただきたいと願う。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

『交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から』
著:島田 久仁彦(出版社:NHK出版)
ISBN-13: 978-4-14-088417-1