COP24報告(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 12月8日(土)より、経団連21世紀政策研究所研究主幹として経団連ミッションの一員としてカトヴィツエのCOP24に来ている。言うまでもなく、今回のCOP24の最大の課題はパリ協定の詳細ルールに合意することである。厳しい交渉を経て2015年に合意されたパリ協定は「法律」のようなもので、それだけでは機能しない。パリ協定の根幹をなすNDCの範囲、透明性の手続き等について「政令」、「省令」に当たる詳細ルールを固める必要がある。

1.今次交渉の主な争点

 現下の交渉の大きな構図は、第1に共通のルールを重視する先進国と先進国・途上国間の二分法を可能な限り持ち込みたい途上国、特に中国等の有志途上国(LMDC)の対立であり、第2に先進国からの資金援助を確保したい途上国(特に低開発国、アフリカ等)と資金援助の野放図な拡大に慎重な先進国の対立である。
 これを主な論点ごとにみると以下のようになる。

(1) NDCの対象範囲に緩和以外(適応、資金等)を含むのか
  中国等の途上国がNDCの対象範囲に緩和以外も含めることを主張しているのに対し、先進国はパリ協定上、明らかにNDCの対象範囲は緩和のみであり、支援や適応を含めることはパリ協定のリオープンであるとして強く反対している。
(2) NDCの緩和目標に関する補足情報をどの程度求めるのか
  先進国のNDCは現状からの総量削減目標を設定しているのに対し、途上国のNDCは原単位目標や自然体(BAU)からの相対的な削減目標が中心である。特に中国、インド等の新興国がどのような前提条件の下で目標を設定しているのか等を明確化することはその後の進捗状況報告、レビューにおいても非常に重要となる。他方、中国はそうした詳細情報の提出に強く抵抗しており、先進国と途上国の間で要求される補足情報の度合いに差をつけるべきだと主張している。
(3) 透明性ルールの差異化をどの程度認めるのか
  報告、レビューを内容とする透明性ルールはボトムアップのパリ協定の実効性を担保する上で最も重要な部分である。パリ協定では低開発国、島嶼国を中心に途上国に対してある程度の柔軟性を認めることが規定されているが、途上国(特にLMDC)は途上国全体について柔軟性を付与し、先進国と途上国で別途のルールを定めることを主張しており、先進国は低開発国、島嶼国に一定の柔軟性付与は認めつつも、可能な限り共通なルールとすることを主張している。この点に最もこだわっているのは米国であり、トランプ政権以後の米国のパリ協定参加にも大きな影響を及ぼすイシューである。
(4) 資金支援見通し情報の取り扱い
 先進国が緩和や透明性の共通ルールを重視している一方、低開発国を中心に途上国が最も重視しているのが資金問題である。パリ協定9条5項では将来の資金支援の見通し情報を提供することとなっているが、途上国は今回の交渉でこの手続きをルール化し、資金支援見通し情報をレビューの対象とすることを主張している。他方、先進国はこうしたルール化はパリ協定の詳細ルール交渉のマンデート外であるとしてこれに反対している。
(5)2025年以降の新たな資金目標(1000憶ドル下限)の扱い
 パリ協定採択時、2020年までに1000憶ドルという資金支援目標に代わる新たな資金目標(1000億ドルを下限とする)を2025年までに決めることが決議されたが、途上国はCOP24で議論開始を決議し、2023年までに新目標を決定すべきであると主張している。他方、先進国はCOP24で議論開始を決議するのは時期尚早であり、また新目標を議論するならば先進国のみならず、途上国支援を拡大している中国等もドナーとして関与すべきであると主張している。
(6) 市場メカニズム
 市場メカニズムをめぐる交渉は非常にテクニカルであるが、わが国にとって関心が高いのはパリ協定6条2項の自主的メカニズム(JCMがこれに当たる)の扱いである。途上国は6条2項に基づく自主的メカニズムについても国連直轄の6条4項メカニズムと同様、Share of Proceeds と呼ばれる運営経費徴収対象とし、自主メカニズムについても監督機関を設立することを主張している。これに対して先進国は自主的メカニズムを課金徴収対象にしたり、監督機関を設立することに反対している。

2.1週目の状況と今後の動き

  1週目の交渉は、9月のバンコク補助機関会合を踏まえ、10月終わりにパリ協定特別作業部会共同議長から提示されたリフレクションノートをベースに行われた。上記のような政治的な対立が激しい部分以外のテクニカルな交渉に注力し、テキストのオプションの整理、明確化等の作業が一定程度進んだ。12月8日(土)にはパリ協定特別作業部会を閉会し、議長国ポーランドにバトンタッチするとされたが、現実には12月10日(月)、11日(火)も交渉官によるテクニカルな作業が続けられることになる。他方、政治的決着が必要な問題については12日(水)より閣僚レベルで調整するとされており、資金問題については10日(月)からドイツ、エジプトの大臣を共同ファシリテーターとした調整が始まっている。
 過去のCOPと同様、本当にものが動き始めるのは2週目半ばからとなるが、総じて今回のCOPでは詳細ルールについて何等かの合意が得られるとの見方が強い。米国がパリ協定離脱を表明した中、COP24でパリ協定の詳細ルールを合意することはマルチの温暖化防止レジームが機能していることを世界に示すためにも重要であるというのが交渉関係者の共通した見方のようだ。
 それだけに議長国ポーランドの責任も重大である。過去、ポーランドはCOP9(ワルシャワ)、COP14(ポズナン)、COP19(ワルシャワ)と3回議長国を務めているが、いずれも議定書合意や詳細ルール合意といった「節目」のCOPではなく、いわゆる「ストックテーキング」COPであり、COP24とは重みが異なる。2週目の胸突き八丁で、コルティカ議長(環境副大臣)がどのような捌きを見せるのか、今週半ば以降に続報したい。