再エネの導入を支える、高効率で柔軟性の高い石炭火力発電

大崎クールジェンIGCCプロジェクト見学記


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 世界的に石炭火力発電所に対する逆風が急速に強まっている。国連気候変動交渉(COP)の会議場では、環境NGOの若者が、石炭火力発電を悪魔に、それを駆逐するヒーローに再生可能エネルギーを見立てたような寸劇を繰り広げることも多い。しかし本当に石炭火力発電は「滅ぶべき過去の技術」なのだろうか。
 実は皮肉なことに、ヒーローに見立てられた再生可能エネルギーを活用するには、「調整力」が必要であり、石炭火力発電もその「調整力」を提供する戦力として期待されることは、以前から指摘されている。

調整力とは何か

 「調整力」と言ってもピンとこない方も多いだろう。昨年9月に、筆者を含む4名の共著で上梓した「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版社)の中でも述べた通り、電力供給の安定性を確保するために、これまで発電設備は3つの価値を提供してきた。kWh、kW、⊿kWである。
 消費者が価値として認識するのは、kWh、すなわちエネルギーとしての電気の価値である。発電所が提供する価値は何かと問えば「電気(kWh)を作ること」という回答が返ってくるのが通常であろう。しかし、気象条件に恵まれた時に電気(kWh)を作るということしかできない発電設備ばかりになれば、電力供給の安定性は維持できない。
 まず求められるのが、「必要な時に必ず発電できることの価値(kWの価値)」だ。しばしば「原子力発電所〇基分の太陽光発電」といった表現を聞くが、これは夜になればゼロ基分でしかない。夜何か緊急事態が発生して、発電設備を稼働させたいとなっても、太陽光発電の設備は夜の時間帯は無いのと同じだ。従来型の発電所は起動に多少時間がかかるとしても、いざ必要となれば人間がコントロールして発電することができる。季節や年をまたぐような長期の調整力として、需要や再生可能エネルギー発電量の変動を補う役割を担う。
 もう一つ重要なのが、ΔkWと言われる価値だ。これは、短期的な変動を調整して電力(kWh)の品質を維持する価値である。細かく変動する需要や再生可能エネルギーの発電量に素早く対応して、周波数を維持する価値が提供されて初めて、消費者が安定的に使える電気の供給が可能になる。
 従来型の電源は、得手不得手はあってもこれら3つの価値すべてを供給できた。しかし、太陽光・風力発電は、基本的に太陽や風の条件がいいときに、kWhを生むことしかできない。太陽光・風力発電は限界費用(追加的に1kWhの電気を発電するコスト)ほぼゼロで発電することが大きな強みであるが、こうした電源が大量に導入されると、市場で取り引きされる電力(kWh)の価格は当然下がっていく。逆に、kWおよびΔkWの価値が高まっていくのであるが、従前、kWhを取引する市場しか存在しない状況では、従来型電源は太陽光や風力発電の調整役として稼働するわずかな時間のkWh収入しか得ることができない。わが国も含めて、電力市場を自由化して、政策的な保護の下太陽光や風力発電の大量導入を進めてきた各国が、kW・ΔkWという2つの価値に適切な対価を支払う仕組みの構築を模索しているのは、この2つの価値が無いと電力系統全体が持続可能ではなくなってしまうからだ。
 こうした指摘は、既に以前からなされていて、Eurelectric(欧州電気事業連合会)は2011年に“Flexible generation: Backing up renewables” のなかで「増加し続ける風力・太陽光は欧州の電力システムの安定性に影響を与え、それに伴って調整力のニーズが増大している。」と述べているし、IEA(国際エネルギー機関)は2014年に“The Power of Transformation – Wind, Sun and the Economics of Flexible Power Systems” 注1) において「追加的な柔軟性(需給調整力)への投資は、長期的には高いVREシェアを経済的に実現するために必要である。」であるとしている。
 最近では、マッキンゼーアンドカンパニーが“Less carbon means more flexibility: Recognizing the rise of new resources in the electricity mix(脱炭素化のためには、より多くの柔軟性を必要とする)”というレポートを発表しているので、ぜひご参照いただきたい。

石炭火力は調整力を提供できるのか

 火力発電の中でも、石炭はベースロード電源であり、調整は苦手とされてきた。しかし今、高効率であり柔軟性の価値も提供できる石炭火力の開発が、わが国において進められている。先日、国際環境経済研究所のメンバーによる中国地方の環境・エネルギー関連事業の設備見学に参加させていただいた。その際、広島県の大崎上島で行われているIGCC(石炭ガス化複合発電)実証プロジェクトの現場も訪問する機会を得たので、ここにご紹介させていただきたい。
 広島空港から車で竹原港まで車で30分、そこからフェリーで20分で大崎上島に到着、島の西端の橋の先、瀬戸内海のど真ん中に目指す大崎クールジェン酸素吹きIGCC実証プロジェクト(略称OCGプロジェクト)のサイトがある。

 プロジェクトを実施する大崎クールジェン(株)は、国が支援するOCGプロジェクト実施のために中国電力と電源開発の出資により発足したSPC(特別目的会社)である。出資比率も人員も全て50%ずつだという。実証試験の低コスト化の意味もあり、休止中の中国電力の大崎発電所の構内で、港湾施設や貯炭場や煙突などのインフラを流用してOCGプロジェクトは実施されている。

 そもそも何故、石炭をガス化して発電するのか?酸素吹きの意味は?という疑問を持たれる方も多いと思う。ガス化すればガスのGTCCのように石炭による複合発電が可能になり、更に高効率にすることができるからである。石炭ガス化には空気を用いた空気吹きと酸素を用いる酸素吹きがあるが、後者の方が酸素を作るためのエネルギーが必要という意味でネットの発電効率はやや低いが、空気吹きに比べてCO2回収が効率的にできること、燃料電池をトッピングしたIGFC化が可能、ということが酸素吹きのメリットとして挙げられる。

 酸素吹きIGCCでは、GTCC(複合発電設備)の前段で、まず空気分離により酸素を作り、その酸素と石炭を加圧された石炭ガス化炉内で反応(不完全燃焼)させて一酸化炭素と水素の混合物(一部H2Sなどの不純物を含む)を合成し、これを精製して不純物を取り除くというプロセスが必要になる。
 ガスタービンに送られた後は、天然ガス焚きのGTCCと同じである。つまり、ガスタービンで一酸化炭素と水素が燃焼してガスタービンを回し、その燃焼ガスの廃熱により廃熱回収ボイラで蒸気を作って蒸気タービンを回し、同軸の発電機が回転して発電する。酸素吹きIGCCの発電効率は、天然ガスのGTCCに比べると空気分離動力とガス化の損失などから低くなるが、複合化により通常の石炭火力に比べると相対値で15%ほど高くなるという。

 OCGプロジェクトは、第一段階でIGCCとしての性能確認(2018年度まで)、第二段階でCO2分離・回収、第三段階でIGFC化の実証、を計画していて、現在は第二段階のCO2分離・回収装置の設置工事中ということであった。

 ほとんどの試験が終了して成果をまとめつつある第一段階について、OCG相曽社長が説明してくださったところによると、思わぬ成果が得られたという。発電効率、環境性能、設備信頼性などは目標を達成したとのことであったが、プラント制御性・運用性の確認試験の結果、負荷変化率は目標を大きく上回る10%/分を達成したのだ。(通常、石炭火力の一般的運用では3~4%/分とされる注2)はこれは、天然ガスGTCCを上回る値であり、これは、酸素吹き特有の加圧ガス化炉への石炭の供給方法に起因する、とのことであった。

 これまでは、石炭の低炭素化への貢献というと、「高効率化技術で世界的に貢献」というのが決まり文句であったが、酸素吹きIGCCは高効率だけでなく、もう一つ低炭素化に資する特徴があるという。それが、負荷変化速度の速さ、である。太陽光や風力の割合が増加してくると、その変動の調整(しわとり)を制御可能な火力発電が担うことになるが、負荷変化速度が高いほど柔軟な対応が可能なため、再エネの抑制を減らすことができるのである。酸素吹きIGCCは再エネにもっともよく合う火力発電、と言えるかもしれない。


構内全景

石炭火力駆逐論の怖さ

 技術開発の道のりは険しく長い。OCGプロジェクトの現場でも、日々試験とその中で起こるトラブル対応、その解決の繰り返しであることがうかがえた。さらに課題はコストである。エネルギーという究極の生活財を作る技術は、技術として存在するだけではなく、コスト競争力を持たなければ普及しない。普及しなければまたコスト低下も期待できないというジレンマがある。OCGプロジェクトでも「第一段階での結果を踏まえてコスト見通しを立てていきたい」と、コストについては大きな課題として認識されていた。

 パリ協定の合意以降、パストコール同盟やダイベストメント・ブームなど、石炭への逆風は強まるばかりであるが、現実に目を向けると石炭の発電利用はまだまだ増加する見通しである。IEAは、当面は世界的な石炭火力発電の増加は続くと展望している(新政策シナリオ)し、他の機関(米国EIA/DOE、日本エネルギー経済研究所)も同様の見立てである。そういった現実を踏まえれば、時間をかけても石炭の高効率発電技術を実証して商用化することは、一つの現実的な低炭素化への道なのではないだろうか。
 将来的には化石燃料の消費をゼロにすることは必要だろう。しかし目の前の現実を無視してゼロにすることを求めても歪んだ副作用をもたらすだけだ。石炭を十把一絡げにして駆逐すべきとしてしまえば、こうした技術開発の途も閉ざされてしまう。それが世界の低炭素化につながるのかどうか、改めて考えるべきであろう。

注1)
和訳版 http://www.nedo.go.jp/content/100643823.pdf
注2)
https://jcpage.jp/f17/03_cctech/03_cctech_03_mhps_misawa_jp.pdf