発電所がモッタイナイ
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
太陽光発電の出力抑制が話題になっている。太陽光発電が大量に導入されると、太陽が照る時には一斉に発電するので、一時的に電力供給が過多になってしまう。それで出力を抑制する訳だが、折角の電気がモッタイナイ、という意見が聞かれる。
しかし実は、今の日本の発電部門では、この程度ではない、遥かにモッタイナイ事態が多々起きている。
最新鋭の天然ガス火力発電所の方の話を聞いた。
そこではコンバインドサイクル発電という技術が使われている。これはまず天然ガスでガスタービン(タービン=羽根車)を回す。これは飛行機のジェットエンジンと原理は同じもので見かけもよく似ている。違うのは、飛行機だと、ジェットエンジンから熱い排気が出るところ、その排気を集めてお湯を沸かし、蒸気タービンを回すことである。このように2段仕掛けになっているので、コンバインド(=複合)サイクル発電と呼ばれているわけだ。
排熱も徹底して活用するので、発電効率は極めて高くなっている。その代わり、発電設備の費用も高くなっている。ということは、一度建設したら、出来るだけ運転した方がお得だということだ。
しかし今では、昼間は太陽光発電が発電するようになったので、この最新鋭の天然ガス火力発電所の出力はかなり落としているという。これでは、なんにために高い費用を払って、世界最高の効率の設備を建設したのか。モッタイナイ。
ところで、ガスタービンを完全に止められるときは、ある意味、まだマシである。実は、太陽光がいつ照るか分からないので、この発電所では、太陽光の出力に合わせて、いつでも出力を上げたり下げたりできるように、いくつかのガスタービンを中途半端に回している。だがエンジンというのは、中途半端に回すと効率が悪い。これまたモッタイナイ。
古参の石油火力発電所を訪問した。
かつては、石油火力発電所はフル稼働し、日本の電力供給を支えていた。公害対策も徹底しており、排煙・排水処理設備が設置された。
その後、この発電所はピーク電力対応に回っていたが、最近ではあまり稼働しなくなった。太陽光発電が昼間に発電するようになったからである。せっかく高度な公害対策までしているのに、これまたモッタイナイ話である。
それで、この発電所は電気が売れず、採算が合わなくなっている。しかし、この発電所が無くなると、実は困るのである。というのは、猛暑になったり、地震が来たりして、電力需給が逼迫したときには、この発電所が稼働しないと、節電が必要になったり、場合によっては大停電を招いて、経済が大きな打撃を受けるからだ。もしもこの発電所が廃止という事態に追い込まれると、これまたモッタイナイ話になる。いざという時のための発電設備は絶対に必要なのだ。
さていま、この石油火力発電所が稼働するときには、出来るだけ太陽光発電の出力や電力需要の変動に合わせているけれども、これはあまり急激には出来ない。なので、やはり太陽光の出力抑制は必要になる。
石油火力発電所では、出力変化に際して、ボイラー(=石油でお湯を沸かす装置)・蒸気タービン・発電機の全てを注意深く制御しなければならない。ボイラーひとつとっても、急激に温度を上げれば、急激に熱膨張して、故障の元になる。
冷たいガラスコップに熱いお湯をいきなり注ぐと、ヒビが入ってしまう。これと同じことだ。この石油発電所のボイラーは、高さ50mにも上る。これを稼働させると、1%ぐらい熱で膨張するが、50mの1%というと、じつに50cmにもなる。これだけ膨張するので、ボイラーは地面に建設するのではなく、高さ50m超のやぐらから吊るしてある。それでも、あまり急激に熱するとやはり痛むので、ゼロからフル出力にするまでには、数時間はかかる訳である。
そしてやはり、一番モッタイナイのは、動いていない原子力発電所である。
東日本大震災以来、停止したままで再稼働していないもの、建設中のまま止まってしまったもの、完成しているのに稼働していないものなど、いくつかの原子力発電所を訪問した。原子炉もタービンも、ひとたび動けば、たちまち多くの電力が生まれるはずだ。そして原子力発電所は、一度建設が済んでしまえば、燃料費は僅かで済む。だから、原子力発電所が動かないというのは実にモッタイナイ。稼働が遅れている理由は、安全には万全を期するということであるけれども、2011年3月の大震災から、もう7年半も経とうとしている。
太陽光発電の出力抑制も確かにモッタイナイけれども、金額的なことを言えば、天然ガスや石油等の火力発電所や、原子力発電所の方が、遥かにモッタイナイことが起きている。問題は、全量買取り制度による太陽光発電の大量導入と、原子力発電の再稼働の遅れだ。そしてこのコストは、最後には、国民一人ひとりに降りかかってくる。