万物に共通する発展の歴史
書評:マット・リドレー 著「進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来 」
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(電気新聞からの転載:2018年4月6日付)
生物は神がつくったのではなく進化によって出現した。だがこれは生物だけか?実はあらゆるものは進化によって出現したのであり、人間が設計し計画したものではない。言語はガチで進化する。ネット言語も進化する。言語学者はこれを阻むのが仕事のようだが、実際は言語が先にあって文法は学者の後づけで、最後に国家権力が共通語を押し付けた。技術は偉人の発明の歴史と習ったが、実態は技術の進化の歴史である。既存の技術が交配することで、新しい技術が生まれてきた。無数の人間がその触媒をした。電球の発明者は23人もいた。電気が発明されると、電球の発明は必然だった。
この本は16章からなり、万物は進化によって生まれたと説く… 宇宙、道徳、生物、遺伝子、文化、経済、技術、心、人格、教育、人口抑制、リーダーシップ、政府、宗教、通貨、インターネット。ダーウィンの進化論を、進化論の生物版だとすると、こちらは進化論の万物版である。ダーウィンが「特殊進化論」だとすると、こちらは「一般進化論」となる。
筆者のマット・リドレーは、専攻は動物学で、もちろん進化論自体に詳しい。のみならず、英国貴族院議員であり、また、元英エコノミスト誌記者にしてベストセラー作家でもある。科学的な洞察は正確で、政府への批判は実に手厳しい。楽しいエピソードを織り交ぜつつ書いてあるけれど、全てがすらすら読める人はまずいないだろう。というのは、あまりにも扱っている範囲が広く深く、読む側にも相当な知識が要求されるからだ。だが2、3よく分からぬ章があっても、自分の興味ある章だけをいくつか読むだけで、十分に面白い。
万物は進化するのであって、計画や設計によるのではない。偉大な計画や設計は常に失敗する。
政府は何故あるのか。社会契約で誕生しました、というのは大うそだ。政府の進化の歴史をたどれば、もともとはヤクザ集団の暴力支配から始まった。教育はどう進化してきたか。公教育で皆が字を覚えたのではない。英国も日本も、産業が振興すると、私教育で識字率は高くなった。その後、公教育が、軍隊と官僚を育成し、国家イデオロギーを国民にたたきこむために生まれた。この教育は人類を国家の設計と計画に駆り立てたが、凄惨な結果をもたらした。地球温暖化はなんと「宗教の進化」の章に書いてある! それは……、ここで紙幅が尽きた。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来
著:マット・リドレー(出版社:早川書房)
ISBN-10: 4152096373
ISBN-13: 978-4152096371