CO2は汚染物質なの?
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
第90回中央環境審議会 総合政策部会で第5次環境基本計画の中間とりまとめが議論された。(2017.6.29)
その中で、大塚直先生(早稲田大学法学部教授)から「CO2は汚染物質」という発言があった。正確には「CO2が汚染者負担原則に入るのは国際的に常識ですので、ここで特に申し上げる必要もないかと思います。」とサラッと述べておられる。
さらに、高村ゆかり先生(名古屋大学大学院環境学研究科教授)も、「国内はもちろんEUにおいてももちろんCO2は汚染物質、アメリカにおいても最高裁の判断でそのように判定されております。」と当然のように述べておられた。
われわれも「汚染者?」
われわれは酸素を吸って二酸化炭素を排出しており、一人当たり、年間1トンのCO2を出している。これは、人類のみならず、あらゆる動物も同じであり、国際的な常識からすると、人間や動物たちも「汚染者負担原則」に従うことになるらしい。
われわれは汚染者として責任を負わねばならないのか?
大気汚染物質にCO2は含まれる?
環境省の「大気汚染に係る環境基準」を見ると、汚染物質は、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)、光化学オキシダント(Ox)があり、それ以外に「有害大気汚染物質(ベンゼン等)」、「ダイオキシン類」、「微小粒子状物質」があるが、二酸化炭素(CO2)は入っていない。
先生たちは「国内はもちろんCO2は汚染物質」とおっしゃるが、どうして「大気汚染に係る環境基準」にCO2が入っていないのだろう?
エネルギー起源のCO2
国のCO2排出量は「エネルギー起源のCO2」という言葉にあるように、エネルギー統計からCO2排出係数を使って計算で求められる。
煙突から排出される上記の「大気汚染物質」と「エネルギー起源のCO2」とはそもそも性格が異なる。
「大気汚染物質」の削減は、”End of Pipe”対策であり、環境設備を煙突などの排出口に設置するのに対して、「エネルギー起源のCO2」はエネルギー対策、即ち、省エネルギーとCO2の排出の少ない電力の選択になる。
日本のCO2削減は「地球温暖化対策推進法」
わが国が、CO2削減を大気汚染防止法ではなく、地球温暖化対策推進法に位置づけているのは、”End of Pipe”対策で対応しないからである。
アメリカの最高裁は「CO2を大気汚染物質」と判断したではないか
2007年4月に、米国最高裁は「温暖化効果ガスは人の健康や福祉を脅かす大気汚染物質とEPA(環境保護庁)が判断すれば、大気浄化法によって規制できる」との判決をした。(日本総研「「CO2は大気汚染物質?」米国環境保護庁のレポートを考える」(2009.4.23、佐々木努)
高村ゆかり先生の「国内はもちろんEUにおいてももちろんCO2は汚染物質、アメリカにおいても最高裁の判断でそのように判定されております。」との発言は、これを受けたものだろう。
アメリカは、最高裁の判決を受けて、大気浄化法(Clean Air Act)の法体系の中でCO2問題の対応を図ろうとしたのだが、トランプ政権になってどうなるのかはわからない。
少なくとも、わが国は、大気汚染防止法ではなく、地球温暖化対策推進法で進めているので、「アメリカがこうだから日本も見習うべき」という論理は当てはまらない。
CO2は汚染者負担原則か?
以上の議論を踏まえると、我が国において、CO2は汚染物質ではなく、「汚染者負担の原則も考慮し排出者に負担を課す」という汚染者負担原則を当然のように当てはめるのは無理があると思われる。