トランプ政権のパリ協定離脱と米国内の反応について


環境政策アナリスト

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「一般社団法人 日本原子力産業協会」からの転載:2017年6月29日付)

 パリ協定は2015年署名され、現在147ヶ国で批准されている。米国では2005年に比して2025年26-28%温室効果ガスを削減することとしていたが、6月1日トランプ大統領は選挙期間中の公約どおりパリ協定からの離脱を宣言した。同日のトランプ大統領の会見では米国の雇用と経済成長を強調し、パリ協定を他国の便益に対して米国を不利益にさせる協定の一例であると表現し、同協定離脱は鉄鋼・石炭を含む米国製造業にとってよりよいことであると述べた。ただし、一方でトランプ大統領は民主党指導部とパリ協定再加入、または「米国国民を守る新しい協定」を交渉する可能性も述べている。

1.トランプ政権内部の議論

 本決定にはトランプ政権内の数ヶ月の議論があった。パリ協定の支持者はティラーソン国務長官、イヴァンカ大統領補佐官であり、世界のリーダーとして気候変動に対応し、交渉に影響力をもつべきという立場である。他方反対派はバノン首席戦略官とプルーイット環境保護庁長官である。彼らは数ヶ月間トランプ大統領のポピュリスト的本能に訴えつつ、他方で、本協定がトランプの化石エネルギー重視の政策にマイナスになるという複数の保守派指導者、共和党議員の懸念をトランプ大統領の耳に届かせることに成功した。
 撤退表明後、トランプ政権はグローバルなエネルギー・環境対話に引き続き関与していくことを強調している一方、パリ協定そのものの問題に焦点を当てている。たとえばペリーエネルギー省長官は以下のように述べている。「本日トランプ大統領はオバマ政権によって片務的に調印された協定にはもやは拘束されないことを発表した。これは上院に提出もされないし、批准もされない。長期にわたって米国の経済的な関心事とはならない。トランプ大統領の決定は正しい方向性であることがはっきりするだろう。わたしは全面的に支持する。クリーンエネルギーを口で説くのではなく、そのために行動するつもりだ。空虚な言葉よりも仕事すること行動することが大切だ。
 (中略)米国は引き続きグローバルなエネルギー開発に積極的に関与し続ける。そして次世代技術の開発の世界のリーダーであり続ける。それこそまさにわたしが日本と中国へ行き、原子力、化石エネルギー、LNG、再生可能エネルギーを含むすべてのエネルギーの便益を議論する理由である。」後にペリー長官は日本で米国が国際的な議論に関わり続けていくこと表明した。

2.パリ協定からの離脱のオプション

 米国がパリ協定から離脱するには3つの方法が考えられる。ひとつめのオプションはパリ協定28条に基づき、正式な離脱の手続きを踏むこと。同条では国連に協定発効後3年後離脱の書面通告をし、さらにその1年後効力をもつとされている。第二のオプションは国連気候変動枠組条約そのものから離脱をすること。第三のオプションはパリ協定への米国の署名を大統領令により無効にすることである。このオプションは国際的に非拘束であるとの前提に立ち、オバマ政権によってなされた排出削減へのコミットメントを単に否認し、協定を無視するという手段からなる。第三がもっともありうるオプションであるとの見方もあるが、いくつかの法的な問題もあり、行方を注目したい。

3.政界からの反応

 当然のことであるが、議会は支持・不支持分かれている。共和党は、トランプ大統領の決断が米国の利にかなうものと支持する議論と、グローバルな環境の議論に関与するべきとする議論がある。民主党はおおむね不支持である。以下おもな議論を紹介する。

上院共和党院内総務マッコーネル上院議員(ケンタッキー州)
「前オバマ政権の国内エネルギー生産と雇用への攻撃に対するトランプ大統領およびその閣僚による顕著な一撃として賞賛する。オバマ政権はわれわれからみれば怪しげな法的基盤によるコストのかかるエネルギープランにコミットしていた。達成不可能な目標から離脱することより、トランプ大統領はこの国の中流階級の家族と産炭州の労働者たちをエネルギー高価格および潜在的な雇用機会喪失から守るとの(選挙期間中の)公約を繰り返してくれた。」

インホフ上院議員(共和党オクラホマ州)
「大統領の決定はこの政権が環境急進派政策から勤労米国民を守るという重要課題を優先させたことを示している」
 インホフ上院議員は他の21名の共和党上院議員とともに、5月25日「パリ協定に残れば温暖化ガス規制支持者は、トランプ大統領が行うとしているクリーンパワープラン無効の努力に対抗するため、パリ協定をその法律的根拠として利用することになる」と書簡を提出。

コーカー上院議員(共和党テネシー州)
「同協定が要求しているのは本質的には非拘束的である。しかしながら一方で国内の利害団体が同協定を使って規制撤廃をストップさせようとするための法的手段の根拠にするかもしれないというもっともな懸念があった。」

下院外交委員会委員長ロイス議員(共和党カリフォルニア州)
「問題はあってもこの協定は再交渉は可能だ。米国の利益を前進させ、われわれの経済を拡大するためにはわれわれは世界の舞台のリーダーで居続けなければならない。よりよい協定を生み出すのはトランプ政権にかかっている。」

上院民主党院内総務シューマー議員(ニューヨーク州)
「パリ協定からの離脱宣言は将来からみると壊滅的失敗である。将来の世代は、経済・環境・米国の地政的位置へのおおきなダメージのゆえ、この決定は21世紀最大の間違った政策として振り返るであろう。」

上院外交委員会民主党筆頭委員カーディン議員(メリーランド)
「トランプ大統領のパリ協定離脱決定は米国のグローバルなリーダーシップのショッキングな後退である。オバマ大統領の政治的功績を破壊するだけのためにできることはなんでもするという、あきらかに政治的な明確な意思表示である。そのような決定は科学にも経済にも外交にも政策にも地球の健康状態の基本的事実にも基づいていない。それどころかクリーンエネルギー産業に働く何百のアメリカ人を無視し、歴史的な同盟者を軽蔑し、グローバル経済の変化を恐れてその決定はなされた。世界は今日のアメリカに憤慨し、失望をするに違いない。そして中国、ロシア、インドや他の国は即座に気候交渉のテーブルのトップにある米国の責任を引き受けるだろう。それは現在および将来の米国のクリーンエネルギー雇用にとって害になろう。(中略)わたしは大統領が引き起こすこれらダメージを軽減するため法的解決先を模索したい。」

 6月6日にランク中国駐在米国大使代理はパリ協定離脱の決定を理由として辞任をすることを表明した。ランク大使代理は職業外交官として2016年から北京でナンバーツーの位置にあり、上院で承認されたばかりのブランスタッド大使が着任するまで本職を務めていた。
 州レベルではバージニア州で本発言に先立つ5月16日、マッコーリフ知事(民主)が関係部局に今年の年末までに新たな環境法制を成立するように指示し、5月31日にはカリフォルニア州で2030年を目標として50%の再生可能エネルギー導入義務(RPS)を可決、ハワイ州では6月6日イゲ知事(民主)がパリ協定の目標に沿った形で緩和と適応策を推進する州委員会を策定した。ハワイ州はこの州法により温暖化目標を産業革命以前の2度以内に抑えると設定し、パリ協定をコミットした最初の州となった。

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