資源循環型社会構築への未来図(その3)
森 浩志
日本生命保険相互会社 顧問
3.排出事業者責任の自覚・現状
排出事業者の意識変化について少し前述したが、ここでは現状を掘り下げてみる。
今回の法改正に向けた廃棄物処理専門員会報告書では、排出事業者の責任の徹底について、項目を設けて整理しているが、責任の具体的な内容や留意事項、取組事例等をパンフレット等で周知することが中心となっている。
排出事業者の意識の希薄化への懸念については、制度の創成時からの問題である。廃棄物の排出事業者は、「早くこの廃棄物を片付けて欲しい。」「委託料(処理料金)を払ったのだから、そちらの責任でチャントやって欲しい。」が典型的な希薄化の意識の表れである。
排出事業者の意識の希薄化問題は、今回の法改正に向けた報告書にも取り上げられているが、希薄化がもたらす問題は深刻で、言うまでもなく廃棄物の適正な処理料金を著しく下げたダンピングが平然と行われると、委託基準違反の発生だけでなく、しいては不法投棄の発生のなど不適正処理の要因につながる恐れが大である。
更に希薄化については、前述した今年3月の排出事業者責任の徹底の通知に記載されているように、排出事業者が果たすべき決定や手続きなどの責任まで一括して第三者に丸投げされる場合には、適正な処理料金が支払われず、それによって生じる不適正な処理が現実問題とし起こりうる可能性が高い。
第三者の管理会社やコンサル会社に委託することが、全てがだめというのではない。排出事業者として、処理業者の選定、委託する廃棄物の種類、量、料金など根幹事項を自らの責任で決定した後、あくまでも、その補助のみを第三者に依頼することはあり得ると考える。
22年度の法改正で、排出事業者も措置命令の対象になる制度となったが、これで措置された例がないため、必要で大切なことではあるが、現状では説得力が弱く、規制制度の限界をやや感じる。
同改正で、排出事業者に対して、「廃棄物の処理状況の確認を行い、発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における適正処理に必要な措置の努力義務」を新たに定め、廃棄物の処理・資源化のフローを排出事業者として状況確認を行い、適正処理の確保に努めて欲しいと定めたのである。
このような規制制度の強化に対して、規制の順守は当然であるが、排出事業者の取組み方は様々となっている。
制度を知りながら現実問題で無視せざるを得ない状況や、消極的な取組みに終始する排出事業者も残念ながら存在している。図1に示すように、制度が求める姿と現状には意識のギャップが存在しているが、そのギャップは国や自治体の様々な制度づくりや取組みなどにより徐々に縮小する傾向であると言える。
その一方で、図2に示すように排出事業者の中には、規制の強化や社会の大きな動きに合わせて、その意識を高めている排出事業者も存在している。委託基準等を遵守し処理料金と資源化を重要な課題としながら、CSRやグリーン購入などにも取組み始めている排出事業者が多くなってきている。
最近では、更に排出事業者の意識や取組みは変化している。その例を少し掲げると、一つは排出事業者によるチェック体制の構築である。廃棄物の処理業者に対して評価・監査制度を創り、現地視察を含め評価項目に従い毎年チェックし、それにより処理業者への委託を中止、継続、採用を定めて、処理の適正化と処理責任を果たしている排出事業者もいる。
また、下取りなどの資源化・リサイクルの取組みを社内事業としてスタートさせ、この取組みを積極的に発信し、販売促進や成長戦略などのPR材としてビジネス展開する事業者も増えてきている。
更には、これまで廃棄物の処理や資源化を処理業者に委託していた排出事業者が、これを社内の事業として取り込み、新しいビジネスとして展開を図っている事業者も現れている。また社内には取り込まなくとも、資源化・リサイクルの業者と連携・協業し、資源化施設の整備、資源化技術の共同開発、市場の拡充等の取組みを行って排出事業者が見られるようになった。
排出事業者の意識の希薄化が懸念され、前述した意識のギャップの存在も社会的に大きな問題であるが、このギャップをこれまで以上に縮小させていくための取り組みがこれからの大きな課題である。
次回:「4.処理業者の意識のギャップ」へ続く