資源循環型社会構築への未来図(その1)
森 浩志
日本生命保険相互会社 顧問
近年、資源需要は世界的に増大し、天然資源の枯渇問題が深刻化する中で、我が国にとっても、資源循環型社会の構築は未来への大きな命題となっている。
我が国の廃棄物の再生利用率の変化を環境省のデータからみると、一般廃棄物は平成19年度頃まで着実に上昇し、以降は20%程度で推移している。産業廃棄物の再生利用率については、平成16年度まで着実に上昇し、以降は53%前後で推移している。どちらも最近では頭打ちの様相を呈している。
このような中、残念なことに廃棄物の不適正の問題が続いている。今年の5月だけでも、スクラップや資材置き場での火災が3件連続し、兵庫県の火災は長時間燃え続け隣接倉庫に延焼した。廃家電4品目の1割の約160万台がスクラップ業者等の取引となっている。使用済み家電等が雑品スクラップとして海外に輸出され、国内だけなく海外での環境への悪影響や汚染も懸念されている状況にある。
循環型社会構築への取り組みを踏みにじる不適正な処理は、近年法令規制の強化などにより、建設廃棄物等の不法投棄からみても、件数・量とも大幅に減少してきたが、廃家電のスクラップ問題や昨年の食品廃棄物の不適正な転売事件など、いまだ発生し続けている。
このような状況の中で、2020そしてその先の社会経済の発展とともに、資源循環型社会の構築をこれまで以上に加速させ実現させていくためには、廃棄物に関わる①排出する企業、②資源化・処理する事業者、③制度創成、許可・規制指導する行政の三者が、それぞれが新しいステージへの取組みである未来図への課題をどう捉え、何を行って行かなければならないのかシリーズで少し掘り下げ探ってみたい。
1. 取り巻く環境の変化
2. 法改正など制度改正の動き
3. 排出事業者責任の自覚・現状
4. 処理業者の意識のギャップ
5. 未来図と課題
6. まとめ
1.取り巻く環境の変化
廃棄物を取り巻く環境は、近年大きく変化している。資源循環型社会の構築を進めるうえで、この変化をしっかりと捉えることが今や不可欠である。
まず、変化の代表的な例の一つとして、欧州では3R、エネルギーなど資源効率を向上させるため、資源の利用や環境への影響と経済の成長を切り離す(デカップリンング)資源効率について活発な議論がされ始めている。
日本においても、設備効率の向上、省資源化、再エネの導入などの取組みは既に進めているが、この包括な概念としての「資源効率」は、今後議論が展開されてくると推測され、期待したい。
国内では、人口減少、少子・高齢化、ライフスタイルの変化、意識変化などに伴い、家庭などから排出される一般廃棄物を1人1日当たりの排出量の変化からみると、平成12年以降継続的に減少している。一方、企業から排出される産業廃棄物は、バブル経済の崩壊以降は、約4億トンで推移し大幅な増減はみられない状況が続いている。
排出事業者の意識は、徐々に変化しつつある。処理業者へ委託することで責任を果たし、処理経費の削減が重要な課題としながらも、CSRやグリーン購入などの取組みを排出事業者は始めてきた。最近では、処理業者への監査制度の導入によるチェック体制の強化、サプライチェーンの管理などとともに、資源化リサイクルの業務を内部事業として展開するなど戦略的・構造的な変化をも見せてきている。しかし、全体的には排出事業者の意識が希薄で、責任を果たせていない事業者は今も多く存在している。
近年、AI、IoTをはじめ技術革新は目まぐるしく、これに伴い選別、破砕などのスーパーソーティング技術や、リサイクル技術、資源化技術も大きく進化し続けている。資源化施設の現場では廃棄物の種類などに適した技術改良が積極的に進められている。
法規制の動きを少し触れると、食品廃棄物などの不適正事件への対応として、食品リサイク法の判断基準や、食品関連事業者向けガイドランの公表が行われている。
今後大きな影響を及ぼすと考えられる通知が都から、このほど発表された。それは、昨年1月、東京オリ・パラ競技大会組織委員会によって「持続可能性に配慮した調達コード」と今年1月の運営計画の決定でる。
大会の準備・運営段階の調達プロセスにおいて、法令順守はもちろんのこと、地球温暖化や資源の枯渇などの環境問題はもとより、人権・労働問題、不公平な取引等の問題などをも広く考慮に入れた社会的な責任を果たしていくことが重要であるとしたのである。
そのため、経済的合理性だけでなく、公平・公正等に配慮し、大会開催のために必要な物品やサービスを調達する考えとして、4つの原則に基づいて、持続可能性に配慮した調達を行っていくとした。ちなみに、4つの原則とは、①どのように供給されているのかを重視、②どこから採り、何を使って作られているのかを重視、③サプライチェーンへの働きかけを重視、④資源の有効利用を重視である。
現代社会の象徴的なことが今年3月に国から改めて通知された。それは排出事業者責任の徹底指導の都道府県への通知で、第三者の代理、仲介、あっせん等を行う廃棄管理業者に任せっぱなしの排出企業がいまだに存在していることから、排出事業者としての自らの処理責任を果たす観点から、委託契約等の決定を第三者に委ねるべきではないとした趣旨であるが、管理業者等の在り方については、今後しっかりと議論すべきテーマである。
次回:「2.法改正など制度改正の動き」へ続く