経済の「嫌な予感」根源を丁寧に整理
書評:原 真人 著
日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2016年12月16日付)
今月5日、安倍総理大臣の在任期間が1807日となり、中曽根元総理大臣を上回って戦後歴代4位となった。
それまでは毎年のように総理大臣が交代し、COPなど国際会議で海外の研究者や友人と話しても日本の首相の名前すら認識していないことが多かったが、今は安倍首相の名前と顔、そして「アベノミクス」の認知度は相当高いと感じる。
国民の中にも、アベノミクスが成功する以外、日本の生き残る道はないとして期待する声は、政権発足当時ほどではないにせよ依然強いし、私もその一人である。
しかし、今年8月に発表された総額28兆円にも上る経済対策に象徴される一時的な浮揚策で、本当に足腰の強い経済を取り戻せるのか、不安に思い始めている国民が多いのも事実であろう。
私は2013年6月に「アベノミクスをコケさせない処方箋」と題して当時、進められた電力システム改革の議論に違和感を呈したことがある。アベノミクスで3本の矢の最後の1本である「成長戦略」を成功させるには「安定的かつ安価な電力」が必須であり、電力改革がそれに役立つかどうか強い疑問を抱いていたからだ。
この小論は現在もWebで公開されているのでぜひご覧いただきたいが、その当時抱いていた違和感は今もぬぐえない。むしろ、原子力発電所の長期停止が変わらず続いていること、核燃料サイクル政策や電力システム改革における原子力事業の位置付けといった、しんどい議論が進まない状況に、違和感は「嫌な予感」になりつつあるように思う。
この「日本『一発屋』論」はそうした嫌な予感がどこに起因するのか、アベノミクスのどこに懸念があるかを丁寧に整理してくれる。日本は今後、世界でも例を見ない人口減少と高齢化を迎える。成長戦略も明らかに今までとは異なる発想に立たねばならないはずが、そうではないことに強い警鐘を鳴らす。
経済対策の成否は、そのただなかにいるときには判別しにくいが「歴史的にどう評価されるのかを意識し、今を報道しなければならない」という真摯な姿勢に貫かれた力作である。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス
著者:原 真人 (出版社:朝日新聞出版)
ISBN-10: 4022736917
ISBN-13: 978-4022736918