第5回 ゼロ・エミッション社会を目指し、日本がやるべきこと〈前編〉
経済同友会 環境・資源エネルギー委員会 委員長/旭硝子株式会社 代表取締役会長 石村 和彦氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
パリ協定の評価
――COP21のパリ協定では、資金提供、市場メカニズムの活用、進捗状況の把握、イノベーションの重要性などが決定されています。パリ協定をどのように評価していますか?
石村 和彦氏(以下、敬称略):アメリカや中国といった主要排出国が入ったこと、そして各国でそれぞれ目標を作って、国際的にレビューしながら進めていくことについて、ほぼ全世界の国が合意したことは、非常に意味があると思います。
石村 和彦(いしむら・かずひこ)氏。
- 1979年3月
- 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
- 同年4月
- 旭硝子株式会社入社
- 1989年7月
- 同社エンジニアリング部設備技術研究所 硝子グループリーダー
- 2000年10月
- 株式会社旭硝子ファインテクノ社長
- 2004年9月
- 旭硝子株式会社 関西工場長
- 2006年1月
- 同社 執行役員 関西工場長
- 2006年4月
- 同社 執行役員 エレクトロニクス&エネルギー事業本部長
- 2008年3月
- 同社 代表取締役 兼 社長執行役員COO
- 2010年1月
- 同社 代表取締役 兼 社長執行役員 CEO 兼 グループ戦略室長
- 2012年1月
- 同社 代表取締役 兼 社長執行役員CEO
- 2015年1月
- 同社 代表取締役会長
つい最近、アメリカと中国の両国が批准したことも非常に意味が大きいと思います。これで全世界がCO2削減という方向に舵を切ったことが明確になりました。
――パリ協定では、イノベーションの重要性が位置づけられました。
石村:イノベーションとは技術革新だけを意味するのではなく、社会に大きな影響があるものだと考えていますが、パリ協定で皆がイノベーションで社会が変えられる可能性があると認識したことは、意義深いと思いますね。
2030年に向けた温暖化対策とエネルギーミックス
――日本の国内対策について、2030年に向けて2013年比26%の温室効果ガスの排出削減目標が出されましたが、どのように評価されていますか?
石村:昨年7月に、17%の省エネも含めて、どのようなエネルギー構成比の電源にするかについて、政府の方針として2030年の長期需給見通しが示されました。政府案はCO2削減も実現しつつ、一方ではエネルギーコストを低減し、日本の産業競争力をある程度確保することに配慮したものです。2030年にゼロ・エミッション電源の原子力20~22%と、再生可能エネルギー22~24%、残りを化石燃料と考えたものですが、やはりこれを何としても実現するべきだと思います。(図1)
しかし、今の状況を見ると、本当に2030年にエネルギーミックスが実現できるかというと不安にならざるを得ません。あと14年でしょう?再生可能エネルギーの利用は、日本ではまだ12%程度ですが、それを20%超まで引き上げます。このうち約9%を占める大型水力発電の開発は今後難しいので、新たな再生可能エネルギーを導入する必要があります。この数年の再エネの導入を見ると、太陽光発電に偏重しています。もし、全発電電力量の10%が太陽光になった場合、今のままでは日本のグリッド(送配電ネットワーク)を破壊してしまうのではないかと危惧しています。
太陽光発電は、天候に左右される変動電源ですから、ちょっと日が陰ったら一気に発電量が減少します。その場合に備えて、バックアップ電源が必要です。今、太陽光の比率は2%程度ですから、少々日が陰っても火力発電所で調整しますから、大停電は起こりません。しかし、全発電電力量の10%も変動電源がグリッドの中に入ってきたら、発電が落ちた瞬間、バックアップがなければ大停電が起こります。結局、太陽光の導入が増えれば増えるほど、火力発電も増えることになりかねない。本当はバックアップ電源を火力ではなく、バッテリーのようなエネルギー貯蔵技術できちっと備えながら増やしていく必要があるでしょう。経済同友会としても、変動性の高い再生可能エネルギーの利用を増やす際には、そのような設備的な余力に加えて、将来的には需給のバランス調整を導入する施策が必要であると提言しています。