第3回 電力の安定供給とCO2削減の両立をめざす〈前編〉
電気事業連合会 森﨑 隆善氏(電気事業連合会 立地環境部長) ※インタビュー当時の役職
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
パリ協定の評価
――COP21で合意された「パリ協定」の評価は?
森﨑 隆善氏(以下、敬称略):今回すべての国が気候変動に取り組むことを約束したという意味で極めて重要な一歩であったと我々も思っています。
森﨑 隆善(もりさき・たかよし)氏
平成元年3月 早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了。
平成元年4月 中部電力株式会社入社。
平成15年7月 同 環境部環境計画グループ課長。
平成17年7月 同 経営戦略本部業務改革推進グループ課長。
平成19年7月 同 碧南火力発電所発電課長。
平成21年7月 同 碧南火力発電所技術課長。
平成22年7月 同 環境部環境アセスグループ長。
平成25年7月 電気事業連合会立地環境部長。
今後は各国が確実に批准をして、パリ協定を発効し、国際枠組みの下で削減に向けた努力をしていくことが大切です。2030年に向けて、レビューをしながら着実に進んでいくことが求められます。わが国も温室効果ガスの削減に向けて目標を掲げていますので、我々電気事業者も、「電気事業低炭素社会協議会」を設立し、「低炭素社会実行計画」を目標として挙げ、その達成に向けて取り組んでいるところです。我々としては「S+3E」(安全確保のSを大前提とし、エネルギー安定供給、経済性、環境保全の3つのEの同時達成)の観点をもって、最適なエネルギーミックスを追求しながら温暖化問題の解決に向けて貢献をしていきたいと思っています。
――協議会はどのような組織ですか?
森﨑:「電気事業低炭素社会協議会」は、電気事業全体で地球温暖化問題に取り組むことを目的に設立しました。京都議定書の第1約束期間の頃から、電気事業連合会は自主行動計画を作り、経団連のもと温暖化対策に取り組んできました。これまでは、電気事業連合会と新電力特定規模電気事業者という2つのグループに分かれて別々の目標を掲げ、温暖化対策に取り組んできましたが、日本の温暖化対策を進める中で電気事業全体として一体的な取り組みが国からも求められました。電力自由化の流れの中で、我々も一体となってやっていく必要があると考え、主要な電気事業者が集まって協議をし、昨年の7月に共有の目標を掲げ、今年の2月にお互いルール決めを行い、「電気事業低炭素社会協議会」という形で発足しました。
――パリ協定を踏まえて「地球温暖化対策計画」が5月に閣議決定されました。どう評価しますか?
森﨑:日本の目標を達成していくために、国全体として温暖化対策計画を推進していくことは大変有意義だと思っています。我々が経団連の下でやっている「低炭素社会実行計画」の自主的取り組みに一定の評価をして頂き、続けてやっていくことを計画に取り込んで頂いたことも、意義があったと思っています。ただ、長期目標の2050年80%削減については現状のままでは達成は非常に困難です。イノベーションが不可欠ですし、CO2排出削減をしていくためには企業がやはり元気である必要があります。我々としては電気代を安くして、「経済」と「環境」の両立をしながら目標を達成することが重要だと考えています。
2030年のエネルギーミックスの実現に向けて
――昨年7月、政府の2030年度の長期エネルギー需給見通しが決定しましたが、このエネルギーミックスは達成できる見込みですか?
森﨑:2030年度の目標については、国の検討の中で電力を含めたエネルギー全体の供給の体制を踏まえて検討していただいたので、一定の条件の下で積み上げられました。エネルギーミックスを大前提として掲げた26%削減では、再生可能エネルギーや原子力などの“ゼロエミッション電源”が2030年に44%担うという目標になっていますが、目標達成にはかなりの努力を要します。非常にチャレンジングですが、努力すれば達成できる目標だと思いますので、引き続き最大限の努力をしてまいります。(図1)
我々としては再生可能エネルギーの導入拡大とともに、原子力の再稼働を安全性の確保を最大限努力しながら進めていきたいと考えています。電力を安定供給することが、我々の使命です。また東日本大震災後、原子力発電所が長期停止している状況を、古い火力発電所を稼働することでなんとか補ってきましたが、火力発電所は少しずつ新しい高効率なものに置き換えることによりCO2排出を抑えていきたいと考えています。火力は太陽光や風力などの出力変動する再生可能エネルギーのバックアップ電源としての役割も担っています。エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本では、特定のエネルギー源に依存するのではなく、バランスの取れた電源構成を追求する必要があります。