山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」
改めてエネルギー・電力と経済の関係を問う
国の革新力と私たちの暮らしを支えるエネルギーと電気
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
製造業が雇用を失ったのは、デフレの時代に借金返済を優先し、設備投資を行わなかったからだ。この十数年間で、製造業の長期・短期の借入金は150兆円から120兆円に30兆円減少したが、その返済原資の大半は設備投資の減価償却費から調達されたものだった。本来設備投資を行うべき資金を返済に回したわけだ。その結果、日本の製造業は競争力、革新力を失ってしまった。図-3に国の革新力が示されている。革新力がなくなった日本企業はドイツ、米国などの企業との競争に勝てなくなってしまった。
今のデフレ脱却戦略は、製造業の設備、研究開発投資を促すことになるが、製造業が競争力を付けるために必要な条件がもう一つある。エネルギー・電力コストだ。最新の法人企業統計と工業統計のデータを見ると、製造業の2013年度の営業利益額は16兆1000億円だった。一方、電気料金は4兆円だ。震災以降、製造業の電気料金は1兆円以上増えている。電気料金上昇の大きな理由は原子力発電所の停止だった。営業利益額と比較すれば1兆円のインパクトの大きさが理解できるし、1兆円を人件費に充当していれば、3%の賃上げが可能だった。研究開発投資に回していたとしても、その効果は大きかっただろう。
原子力発電所の操業には事故というリスクがある。しかし、停止により私たちは電気料金上昇、産業の革新力低下という別のリスクを抱えることになる。どちらのリスクが大きいのか、よく考え、議論すべきだ。