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COP21 パリ協定とその評価(その2)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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市場メカニズム

 今回の交渉における争点の一つは市場メカニズムを認めるか否かであった。日本を含め多くの国々は何等かの形で温室効果ガス削減量の国際移転を認めるべきとの主張を行っており、バリ行動計画以来、ずっと議論が行われてきたが、ベネズエラ、ボリビアのような社会主義国が市場メカニズムに強固に反対していたため、議論は進展しないままであった。
 パリ協定第6条第1項では締約国がNDCの実施にあたって自主的な協力を行うことを選ぶことがあることを認識し、第2項では「NDC達成のために緩和成果の国際的移転を含む自主的な協力的アプローチを行う場合、・・・ガバナンスを含む環境十全性と透明性を確保し、ダブルカウントの防止を含む強固なアカウンティングを適用する」と規定された(Parties shall, where engaging on a voluntary basis in cooperative approaches that involve the use of internationally transferred mitigation outcomes towards nationally determined contributions…ensure environmental integrity and transparency, including in governance, and shall apply robust accounting to ensure, inter alia, the avoidance of double counting…)。また第3項では「緩和成果の国際移転は自主的なものであり、当事国が承認する(The use of internationally transferred mitigation outcomes to achieve nationally determined contributions under this Agreement shall be voluntary and authorized by participating Parties)」と規定された。この第2項、第3項はまさしく日本が追求してきた二国間クレジット制度(JCM)の考え方であり、日本にとって今次交渉の大きな成果といって良いであろう。
 第6条第4項~第8項ではパリ協定締約国会合の元に設立され、その監督を受ける新たなメカニズムについても規定されている。第4項~第8項の新たなメカニズムが「パリ協定締約国会合の元で設立・管理される」とメカニズムが併記されていることにより、前者がパリ協定締約国会合の管理下にないことが確保されているといえるが、注意すべきは第2項、第3項に基づく緩和成果の国際移転がパリ協定締約国会合の採択するガイダンスと整合的(consistent with guidance adopted by the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement)であることが求められ、ガイダンスは今後検討されることだ。パリ協定の元に設立される新たなメカニズムのルール、手続についても今後パリ協定締約国会合において定められることになる。当事国間で弾力的・機能的に運用すべき第2項、第3項のガイドラインが国連管理型の第4項~第8項のメカニズムのルール、手続のコピーになることは厳に避けるべきだ。かつて京都メカニズムの制度設計に関与した経験に照らせば、国連で策定するルールや手続はどうしても制限的、官僚的なものになる。第2項、第3項のガイダンスが過度に制限的なものとなり、二国間クレジット制度のメリットである柔軟性、機動性を損なうことのないよう、今後心して交渉せねばなるまい。

ロス&ダメージ

 温暖化に伴うロス&ダメージに関する規定は温度目標と並んで島嶼国が強く主張していた点であるが、先進国は気候変動枠組条約にない新たな概念が盛り込まれ、先進国の法的責任(liability)や補償(compensation)につながることを強く警戒し、あくまで既にプログラムが存在する適応の一環として取り組むことを主張してきた。特に訴訟大国の米国は、パリ協定に基づく訴えが頻発するような事態になれば国内世論が硬化するのは間違いないと見て、極めてこの問題に神経質になっていた。
 パリ協定では適応(第7条)とは別途の条文(第8条)でロス&ダメージを規定し、島嶼国の要求を一部盛り込むこととなった。ただし、その文言は「気候変動の悪影響に伴うロスやダメージを回避し、最小化し、取り組むことの重要性を認識する」(第1項)、「気候変動のインパクトに伴うロス&ダメージのためのワルシャワ国際メカニズムはパリ協定締約国会合の元におかれ、締約国会合の決定に基づき強化される」(第2項)、「締約国はワルシャワ国際メカニズムを通じ、協力的、促進的にロス&ダメージに関する理解、行動、支援を強化する」(第3項)という穏当なものとなった。また第8条に関するCOP決定パラ52では「パリ協定第8条は責任や賠償の根拠とはならない(Agrees that Article 8 of the Agreement does not involve or provide a basis for any liability or compensation)」と明記された。
 このようにロス&ダメージでは島嶼国の主張を形式的には盛り込みつつ、実質的には先進国の懸念を払拭するものとなった。温度目標が島嶼国の主張を容れて強化されたこととのパッケージであったと解釈できよう。

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