ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第6回
プライススパイクに依存するリスク①
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
第5回では、DRを電源ミックスに織り込むことにより、プライススパイク(kWh市場価格が電源の限界費用を大きく超える水準に上昇すること)が一定頻度発現し、ミッシングマネーが解消される可能性を示した。ただし、理論上の可能性であり、現実のkWh市場において、実現するかについてはリスクがあると考えている。筆者の考えるところ、リスクは3種類ある。これらを3回にわたって説明する。
<第一のリスク:DRが利用可能でないリスク>
第一のリスクは、DRが利用可能でないリスクである。n=4のモデルは、厳密に言うと、ミッシングマネーが発生していないのではなく、このモデルでも最も限界費用の高い供給力(つまりDR)の固定費に等しいミッシングマネーが発生している。その固定費の額がたまたまゼロであったということである注30)。つまり、ここで活用するDRが、固定費ゼロでなければ、当該固定費額に相当するミッシングマネーが発生するので、条件を満たさない。
例えば、DRの固定費が0.3万円/kW/年であったとすると、電源ミックス及び年間ベースでみた各電源及びDRの収支は表3になり、ミッシングマネーが発生する。
<固定費ゼロのDRを誰が提供するか>
固定費ゼロのDRは次のようなイメージになる。すなわち、DRは、電源と同様にkWh市場に売り入札をする。売り入札をした段階で、DRは市場で約定すればいつでも需要を削減することを約束しているが、この予約の対価(以下「予約料」と呼ぶ)は支払われない。これが固定費ゼロの意味である。つまり、kWh市場で約定した場合に限り、削減したkWhに相当する対価が支払われ、約定しなければ収入はない。これは電源がkWh市場に入札するときと同じ条件である。この条件でDRを提供する需要家が十分に集まるかどうかがリスクである。
八田・三木(2013)によると、ノルウェーの電力市場では、予約料がゼロではないにしろ、非常に安いDRが大口需要家により提供されているとのことである。対して、日本でこれまで行われてきたDRは、予約料を相当額支払うものが主流であり、ノルウェー型のDRの提供ポテンシャルがどの程度あるかは、現時点では不明である注32)。
DRの必要量は、需要のデュレーションカーブの形態やDRの対価、電源のコスト構造等により異なるので一概には言えない。第5回、図14のモデルでは、2,200万kWの需要規模に対して、DRは3万kW(0.1%)のみとの試算結果であるが、実際の需要のデュレーションカーブは、ピーク時間帯の傾きがもっと大きいので、必要量はこれよりは多くなる。ちなみに、電源及びDRの固定費・可変費の前提はそのままで、2013年の東京電力の需要のデュレーションカーブを用いて、DRの必要量を算出してみたところ、図17に示すとおり、需要規模約5,000万kWに対して、150万kW(3%)程度を集める必要があると試算された。
- 注30)
- 詳しくは山本・戸田(2013) 5.3(21頁)
- 注31)
- DRの発電電力量は抑制した電力量の意味である。
- 注32)
- DRの活用促進は、電力システム改革の目玉の一つとされているので、海外のDRアグリゲーターも参入してきている。筆者の知る限り、こちらも相当の予約料を申し受けるビジネスモデルであり、予約料ゼロのビジネスモデルは聞かない。
- <参考文献>
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- 八田達夫、三木陽介(2013) , “電力自由化に関わる市場設計の国際比較研究 ~欧州における電力の最終需給調整を中心として~”, RIETI Discussion Paper Series 13-J-075
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- 山本隆三、戸田直樹(2013) , “電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか”, IEEI Discussion Paper 2013-001
執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹