パリ協定を踏まえた日本の戦略 - Paris Agreement: Japan’s Strategy -
日本の約束草案は野心のレベルが足りないのか?(第2回)
有馬 純・本部 和彦・立花 慶治
東京大学公共政策大学院 教授・客員教授・客員研究員
更に原子力のシェア1%が石炭、LNG、再生可能エネルギーで代替された場合の経済コスト、CO2排出量に与える影響についての感度分析も行われた。仮に原子力22-20%分が再生可能エネルギーで代替された場合、電力コストは上記予測よりも4.8~4.3兆円増大することになる。電力コストの低下という強い要請を満たすどころか、かえって電力コストが拡大することになるのだ。
加えて表2で示されたRITEの限界削減費用分析は減価償却が進み、限界削減費用が非常に低い原子力発電所の再稼動を前提としている。限界削減費用が米国やEUよりも高いのは主に非常に野心的な省エネ目標を掲げていることが理由だ。仮に原発の再稼動が期待されたように進まず、その不足分を埋めるために省エネや再生可能エネルギーの目標値を更に引き上げることになれば限界削減費用は跳ね上がり、日本経済に多大な悪影響を与えることになるだろう
要するに、原発の着実な再稼動は温室効果ガス削減、エネルギー安全保障、エネルギーコスト削減を同時達成する上で不可欠の要件であることは明白だ。日本では奇妙なことに野心的な排出削減目標を主張する論者が、しばしば原発再稼動に反対している。国際環境シンクタンクやNGOは日本のINDCが不十分だといって指弾するよりも、原発再稼動が最も費用対効果の高い削減手法であるとのメッセージを日本国内で発するべきである。
第3回へ続く