日本の2030年目標はどのように決まったか(2)
ー「国民運動」への期待(下)ー
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
② 不便の甘受もあり得べきことを国民に説くべき
これまでの国民運動を見ても明らかな通り、政府は国民に我慢や不便を求めることには及び腰だ。しかし、これだけの高い省エネ目標をなんらの我慢も不便もなく達成することは不可能であり、国民に不便を甘受することを求めることも覚悟すべきである。
例えば「サマータイム」は、欧米を中心に64カ国で導入され注6)、我が国でも終戦直後にGHQ主導で実施されたり、一部の地方公共団体が試験的に導入したり(例えば、北海道庁が平成17年から4年間試行実施注7))と何度も議論されてきたが、全国的に実施されるには至っていない。長時間労働につながる懸念や、時刻設定の変更にかかるコストなどを理由に反対する声も多かったからだ。
平成19年の試算であるがサマータイムを導入すれば年間およそ119万トン のCO2削減効果があるとされる注8)。仮にこの試算が正しく、政府がサマータイム導入によって119万トンのCO2削減を図る必要があると判断するのであれば(サマータイムのメリットは他にも指摘されているが)、国民にそうしたマイナス面については許容するよう理解を求めなければならない。
もう一つ例を挙げるとすれば、インターネット通販の普及に伴い、宅配便の取り扱い件数は増加傾向にあるが、それにともなって再配達件数も増加している注9)。細かい時間指定も可能な再配達サービスは、消費者にとっての利便性は高いが、トラックの走行距離は伸び当然CO2排出量は増加しており、国土交通省が検討に乗り出した。
こうした「便利なサービス」は当然CO2排出増加につながることから、場合によってはサービスの廃止や一部制限も議論される可能性はあるだろう。便利さに慣れた消費者からは不満が出るだろうが、高い省エネ目標を掲げた以上、国民全体でライフスタイルのあり方を変えていく必要がある。それをリードするのは国の責務である。
京都議定書目標達成計画では、家庭部門・業務部門は当初期待された省エネ目標に対して大幅な未達となった。そのしわ寄せを受ける形で産業部門が対策の深堀りを行ったわけだが、2020年以降の枠組みにおいてまた同様の失敗を繰り返すことは避けなければならない。今後の国民運動が、削減という「実」を確実に得るものであることを期待する。