再生可能エネルギーを軸とした地域活性化を考える
-海外事例から見えてくる日本に求められる姿勢-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
さらに言えば、すでに設置されているパネルのほとんどが中国製、追加で新設している部分には台湾製を採用しているとのことで、太陽光による産業育成効果が国内で発揮されていない証左が見て取れる。
しかし、再エネをめぐるこうした現実はなかなか明らかにされない。筆者は昨年開催されたCOP20(第20回国連気候変動枠組み条約締約国会議)において、ドイツのヘンドリックス環境大臣が登壇するサイドイベントに参加したが、再エネの産業育成効果、地域活性化効果によりドイツの再エネ政策が成功しているという前向きな評価ばかりが聞かれた。電気料金の上昇などによって失われる雇用などネガティブインパクトをどう考えるのか、と質問をぶつけてみたが、「失われる雇用などない」と不機嫌に断言されただけだった。国策として進めてきたことだけに、その効果を否定することなどあり得ないのは当然だ。
しかし、ドイツは再エネの普及策としてFIT を採用している。税金に近い形で徴収される「賦課金」という国民負担によって再エネの普及を進めるなら、プラスもマイナスも含めてその効果を定量的に評価し、議論する姿勢が必要だろう。そして日本も、ドイツ政府の「大本営発表」を鵜呑みにして同じ道をたどる必要は全くない。
見習うべきドイツの自然保護精神
自然を愛するドイツは、再エネ事業に対しても厳しい環境規制を導入している。例えば、建設にあたり森林などの伐採を行えば、その6倍の植林を行うことを義務付けているそうだ。
前出のノイハルデンベルク社が行ったプロジェクトでは、乾いた荒れ地を30ヘクタール造成し活用したことで、その3倍の90ヘクタールの土地を別の場所で確保し、25年間にわたって管理・整備することを求められたという。この地に従来生息していた動物(こうもり、トカゲ、タカ)の保護も要求され、人工的な巣作りを行っているという。環境担当官によって要求レベルに違いが見られるということだが、全国でこうした自然保護規制を徹底していることは日本も参考にすべきだろう。
エネルギー政策の視点から議論していると、再エネの導入拡大が全てに優先する価値観であるかのような錯覚に陥るが、日本の美しい原生自然や里山の景観を保護するため、ある程度の規制はせざるを得ないだろう。
日本の再エネ拡大が持続可能になるために
わが国でも、FIT 導入直後、多くの自治体を巻き込んで再エネ事業計画が立ち上がった。しかし、特にメガソーラーが立地した自治体からは「結局、雇用は生まれなかった」というタメ息が聞かれることが多い。雇用が生まれなかっただけではない。発電事業会社の本社はたいてい東京など大都市に置かれているので、売電事業収益に対する税収は立地自治体にもたらされることはない。固定資産税などが増えるだけなのである。
再エネについては、エネルギー自給率向上への貢献、産業育成効果、二酸化炭素(CO2)削減効果など多くのメリットが強調され、逆にデメリットについては見過ごされることが多い。再エネの導入拡大が持続可能なものになるためにも、再エネの導入に競争原理を導入し、できうる限りコスト効果を高くすること、時間軸や規模を見極めること、デメリットについても目をつぶらずに評価する姿勢が求められる。
- 参考:
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- Renewable energy world.com ” Boomtown Bremerhaven: The Offshore Wind Industry Success Story”
http://www.renewableenergyworld.com/rea/news/article/2009/03/boomtown-bremerhaven-the-offshore-wind-industry-success-story
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- NEDO 再生可能エネルギー技術白書
http://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf
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- NEDO 海外レポート 2009 年4 月22 日”洋上風力発電で再興したブレーマーハーフェン(ドイツ)”
http://www.nedo.go.jp/content/100105784.pdf
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- ”The expansion of renewable energies and employment effects in Germany”
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301421505001771