関西電力の苦悩-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(11)
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
昨年末、関西電力は東日本震災後2回目の値上げを申請しました。関西電力は2013年5月にも規制部門9.75%、自由化部門17.26%の値上げを実施しています。
しかし、その後も原子力発電所の再稼働が実現しない状況が続く中、燃料費増が経営効率化だけでは吸収できず、財務体質が悪化したため、今回規制部門10.23%、自由化部門13.93%の再値上げ申請に至ったものです。
申請どおりに認められれば、震災前に比べれば、電気料金は2〜3割程度上がることになります。
これに対して、大阪商工会議所は、直近に行ったアンケート調査に基づいて中小企業の負担は限界に来ているとしつつ、原発の再稼働と中長期的なエネルギーミックスにおける原子力のしっかりとした位置づけを求めています。
そのアンケート調査では、回答企業の9割以上(92.3%)が、電力料金上昇分を自社製品やサービスに「ほとんど転嫁できない」と指摘しています。
また、節電やコスト削減努力の実施余地については、3割強(31.4%)の企業が「努力は概ねやり尽くした」としており、「実施する余地は少ない」(62.1%)との回答と合わせると、9割以上に上っています。
(http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/denkiryokin/pdf/020_06_02.pdf を参照)
これは日本全国でも同じ傾向です。日本商工会議所が最近行った調査によると、電力コストは2011年度比で約3割、1,000万円超上昇しており、今後の電力コスト上昇への対応策は「人員、人件費の削減」が最多、次いで「設備投資等の抑制」を挙げる企業が多くなっています。
中小企業では、儲かっているところでも、年間数百万、数千万円の営業利益しか望めないことが多く、電気料金の上昇だけでその利益が飛んでいってしまうのです。
アベノミクスがうまく進んでいない中で、電気料金上昇による企業負担増はマクロ経済全体の回復に水を差してしまうことは間違いありません。このうえ、固定価格買取制度による再生可能エネルギー導入進展に伴う電気料金アップも待ち構えているわけですから、企業の事業環境はますます厳しくなっていくでしょう。
そのうえ、電気料金値上げの一般家庭への影響はより逆進的なものとなりますから、消費者の反対も強くなることは明らかです。
こうしたことを背景に、関西電力には、ユーザーから電気料金値上げに向けての経営効率化やコストカットが強く求められているわけですが、第1回目の値上げ申請時にも相当のコストカットを求められていることから、今後のコストカット余地は狭まっています。
東洋経済オンラインに、経営コンサルタントの小宮一慶氏による「大幅増益の東京電力と苦戦の関西電力を分析 原発事故後、明暗が分かれる電力2社」という論考が載っています。
両者の経営と財務状況を比較したものですが、その差をコストカット努力と電源構成による原子力不稼働のインパクトの違いに求めています。
東京電力と比べたときの関西電力のコストカット努力はそれほど甘いものなのでしょうか。震災前の22年度と震災後の25年度を比較した場合、両社のコストカット率は双方とも約20%であり、その内訳としての人件費や修繕費のカット割合もほぼ同様です。小宮氏の指摘は、必ずしも当たりません。
コストカットについては、「値上げけしからん」料としての人件費削減圧力は今後とも免れないでしょうが、役員報酬カットをあと何割か増やしたところで、電気料金にはほとんど影響がありません。
それより心配なのは、修繕費の問題です。震災以前に比べると約3割も削減されており、電力関連設備の安全性や信頼性にかかわることが懸念されます。