自主的取り組みの経済理論


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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5.政策パッケージにおける自主的取り組み

 自主的取り組みは、省エネ法とならんで、合理化を促進するものだ。日本で自主的取り組みが重要なのは、エネルギー価格が既に高く、省エネ法も一巡しているという、「政策の飽和」という状況にあって、今後は「政府の失敗」に注意が必要だからだ()。(なお技術開発にも政策の役割があるが、これは前回詳しく述べたので、今回は書かない)。

表 政策の3本柱と自主的取り組み注3)

表

 なお、1点、注意が要る: 自主的取り組みさえあれば、他の政策は全く要らない、ということではない。理論的には、自主的取り組みは税や排出量取引の完全な代替物ではない。実際的にも、例えばエネルギー価格がべらぼうに安い国や、省エネ法が未整備の国では、自主的取組みだけに頼るのは間違いである。
 本稿のように、自主的取り組みは、その理論的役割を整理することで、世界に通用する、すっきりした説明が出来る注4)

 なお本稿について更に詳しくは拙著「地球温暖化とのつきあいかた」および「温暖化対策の自主的取り組み」をご覧ください。

注3)
この表での自主的取り組みは、日本型のものを指している。米国や欧州の自主的取り組みは、日本のものとは位置づけが異なる。米国では、そもそも業界団体というものがなく、自主的取り組みは、一部の企業の参加に留まる。欧州での自主的取り組みは減税などの経済的動機のもとで企業が「買う」もので、不遵守は罰される。
注4)
なお本稿の説明では、社会的責任という道徳的要因、あるいは日本の文化的要因などは捨象している。単純化し過ぎというお叱りはあるかもしれない。敢えてここでは経済学的な範囲に絞って議論を整理することで、普遍的な理解を得ることを試みた。

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